仕事を職人技にする

 仕事をより有意義なものにする第2の方法は、仕事を職人技にすることである。これまでの歴史の中で、多くの場合、職業は世代交代しながら受け継がれてきた。農業や大工、靴の製造・修理などの仕事は、家族の中で次の世代へと引き継がれてきたのだ。また、一人の人が生涯をかけて、苦労を重ねて職人技を完成させたものだった。こうした完成度の追求と絶え間ない向上があってこそ、システィーナ礼拝堂の天井画や、ヒトゲノムプロジェクトのような遺伝学の画期的研究、初代Macの優美なまでにシンプルなデザインなど、歴史に刻まれる偉業が生まれてきたのである。

 こうした職人技に尽力することは、それ自体が目的意識をもたらす。拙著でも説明したように、人は皆、うまく成し遂げた仕事に意義を感じる。何かに最善の努力を尽くし、みずからの限界に挑戦して技に磨きをかけたと感じるところに、本質的なモチベーションと目的がある。

 では現代の仕事で、どのようにして職人技を発揮する機会が見つかるだろうか。財政モデルを構築したり工場のチームを率いたりすることは、ミケランジェロの歴史的傑作やスティーブ・ジョブズの天賦の才からは、いささかかけ離れている感じがするかもしれない。しかし、職人技とは歴史的に重要かどうかの問題ではない。みずからを向上させ、自分のパフォーマンスの限界を超えようとして、新しい挑戦に取り組み、困難だが比類のない何かを成し遂げることなのである。

 筆者がマッキンゼー・アンド・カンパニーのアナリストだった頃、クライアントに何年も使ってもらえるような、エレガントな数式を組み込んだ秀逸なエクセルモデルを構築することが、それに相当するように思えた。筆者は、パートナーが気づこうが気づくまいが、それに取り組んだ。みずからに挑戦し自分を向上させることに誇りを持っていたからである。あなたの仕事においては、きっと何か別のものだろう。好奇心こそが、それを明らかにしてくれる。

 以下を自問してみよう。

・あなたの仕事で、卓越性が求められる中核的な要素は何か。

・その仕事をうまく成し遂げるために必要なスキルは何か。

・仕事を職人技にするために、現在、あなたが力をそそげる領域を1つか2つ挙げるとすれば、それは何か。どのようにすれば日々、向上して、誰よりもうまく、自分の最高の能力を発揮して、それができるようになるか。

 まず、あなたが磨いて完璧にしたい仕事の領域を一つ選ぼう。あなたの仕事にとって重要で、あなたにとって楽しめるものにする。次に、その領域を向上させる5~10の方法を評価し、改善を目指して取りかかり、みずからに挑戦する。時間とともに向上していることが確認できるように、毎日、記録を残すか、古いバージョンを連続的に保存する。

仕事をサービスに結びつける

 人生において人の役に立つことほど、ウェルビーイングと目的意識を高めるものはほとんどない。人にサービスを提供するという行動は、幸福感と達成感に直接的な影響を及ぼすことを多くの研究も示している。筆者の生活を振り返っても、住居支援のNGOハビタット・フォー・ヒューマニティの活動で仲間と一緒に家を建てたり、炊き出しの活動に参加したり、地元の学校で子どもたちに本の読み聞かせをしたりする時ほど、目的を意識できる瞬間はなかなかない。

 サービスは地域のボランティア活動だけに限られない。筆者が以前のHBR記事で概説したように、どのような仕事でも人にサービスを提供する機会が少なくとも6つある。クライアントや顧客、同僚、資本、地域社会、提携業者、そして自分にとって大切な人々へのサービスである。このことを理解して、6つの領域でサービスを提供する機会を探せば、仕事に意義をもたらすことができるだろう。

 ただし、サービスを提供する相手と方法を見極めるには、上辺だけではない好奇心が必要である。次の質問について考えてみよう。

・あなたのクライアントは誰か。

・彼らは何を必要としているか。

・彼らのウェルビーイングを妨げる主な要素のうち、あなたが仕事を通して克服の手助けをできるものは何か。また、どうすれば、よりうまく手助けができるか。

・あなたの助けを最も必要としているのは、どの同僚か。

・どうすれば、見返りを期待せずに、効果的に助けられるか。

・今日、あなたが最も役に立てる相手を2、3人挙げるとすれば、それは誰か。

 好奇心を土台とするこれらの質問は、人へのサービスを考える際の軸となる。先に挙げた6つの領域から2つを選んでみよう。たとえば同僚と顧客でもよい。それぞれのグループから、あなたがさらに役に立てそうな数人のことを考え、1カ月間、彼らのことを真剣に理解しようとし、あなたの仕事を通して彼らの役に立つ方法を試してみよう。

ポジティブな関係に力をそそぐ

 社会科学の文献においては、他者との有意義でポジティブな関係ほど幸福の根幹を成すものはないとされている。そうした関係は、ポジティブ心理学の創始者であるマーティン・セリグマンによる持続的幸福のPERMA理論(Positive Emotion:ポジティブな感情、Engagement:エンゲージメント、Relationship:関係、Meaning:意義、Accomplishment:達成)や、「幸福とは愛である」というハーバード大学のグラント・スタディの研究結果においても不可欠な要素である。ほかの多くの研究でも、同様の結果が報告されている。

 関係は個人生活に限るものではない。私たちは、勤務日にはリモートにしろ対面にしろ、同僚と8時間以上の時間を過ごす。有意義な関係がないところで仕事を進めようとすると、必ず失望することになる。職場でのポジティブな関係は、自分の持続的な幸福に役立ち、周りの人々を幸福にし、極めて素晴らしい企業文化をつくり出すことができる。

 家庭と同様、職場での関係の土台は共感と好奇心である。相手に対して心からの好奇心を示さなければ、互いに思いやりを持って尊重し合う関係を築くことはできない。以下を自問しよう。

・この人はどういう人なのか。

・この人にとって、何が大切なのか。

・どのような不安や恐れ、情熱、目的を持っているのか。

・その日、この人はどのような気分なのか。

・どのようなことに知的好奇心を抱いているか。

 常に好奇心を持って人に近づけば、自然と共感が身につき、あなたの思いやりを彼らに示すことができる。そして、その過程で有意義な関係が生まれる。今後1〜2カ月間、仕事の同僚とやり取りする時、彼らをさらによく知ろうと意識して行動してみよう。答えるよりも多く質問をする。ただ仕事の遂行のためだけではなく、プロフェッショナルとして関係を深めるために、同僚との会話や交流の時間を捻出しよう。職場の関係が向上すれば、あなたも周囲の人々も幸福になり、きっとあなたはさらに生産的になれるだろう。

 好奇心は間違いなく、プロフェッショナルとして成功を収めるうえで不可欠なものだ。一方で、目的を見出す上で欠かせない要素でもある。さらに好奇心を持って職場で生活すれば、仕事と職業上の環境に工夫を加え、自分も他の人々も幸福にすることができるだろう。


"4 Ways to Make Work More Meaningful," HBR.org, October 02, 2023.