経営者交代 成功の条件
サマリー:『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2024年10月号の特集は「経営者交代 成功の条件」です。経営トップが行う意思決定は多々ありますが、なかでも後継者へとバトンを渡すサクセッション(継承)は、... もっと見る組織の未来の成否がかかる最重要事項です。経営者交代という難しい時期をいかに乗り切り、新たな体制を軌道に乗せるか。4本の論考でそのヒントを探ります。 閉じる

経営者にとっての最重要ミッション

 幼い頃、蝶が羽化する瞬間に出くわしたことがあります。脱いだばかりの蛹の殻にしがみつき、まだ弱々しい羽を徐々に広げていく一羽の蝶。少し離れた叢の中から、息を飲むようなその美しさに目を奪われていた私はしかし、次の瞬間の光景に衝撃を受けました。あの陰影の正体は何だったのか、外界を知ったばかりの蝶は無惨にも、天敵の餌食になってしまったのです。

 今号の特集記事を編集しながらふと、遠いあの日の記憶が脳裏をよぎったのは、今号の特集テーマである「経営者交代」が、羽化する蝶のイメージと重なったからにほかなりません。虫たちにとって、メタモルフォーゼの瞬間は命が最も危険にさらされる時。同様に、企業にとってトップが交代する移行期は、社内が混乱し、さまざまなリスクが顕在化して脆弱性が高まる時期です。舵取りの難しいこの時期をいかに乗り越え、美しい羽を広げて空を舞う蝶へと変身するか――そんな主題を念頭に置きながら今号を編みました。

 特集1本目は、リクルートホールディングスの峰岸真澄氏へのインタビューです。なぜ同社ではサクセッションを成功裏に進められるのか、なぜ次世代リーダー人材を着実に輩出できるのか、その秘訣を聞きました。

 特集2本目「新CEOは権力と影響力をどう使いこなすべきか」と特集3本目「信頼を勝ち得たリーダーは3年目に飛躍する」は、新旧交代の移行期から新体制として組織が落ち着いていくまでの間に、新リーダーが特に留意すべき点について、それぞれ異なる切り口からの視点を示してくれる論考です。

 特集4本目「退任を控えたCEOが直面する5つの分岐点」は、後継者へとバトンを渡した30人の元CEOへのインタビューをもとに、退任するトップたちが経験する引き際の複雑な感情とどう向き合うかについて考察します。

 リスクがある一方、優れたサクセッションは組織を強固にします。「私の最大の功績は、次のCEOにバトンを渡せたこと」。取材中、リクルートホールディングスの峰岸氏がそう言い切る姿が印象的でした。

(編集長 常盤亜由子)