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サービスや商品の陳腐化を意図的に組み込んだことによる代償
かつて企業は、「計画的陳腐化」によって、意図的に寿命が限定的な商品をつくり、買い替え需要を促す戦略を取ってきた。一定の使用時間が過ぎると切れるよう設計された電球から、ソフトウェアを更新するとスピードが落ちるスマートフォンまで、企業は定期的な買い替えを要する商品を巧みに生み出してきた。
計画的陳腐化は信頼できる収益源をもたらしてきたが、それには破壊的な代償が伴った。廃棄物による環境負荷の増大や、消費者の信頼低下、顧客との関係を深める機会の喪失などだ。だが、持続可能性への関心が高まるとともに、顧客ロイヤルティがますます重要になるなか、多くのエグゼクティブは計画的陳腐化から脱却して、成長する製品をデザインする方法はないかと考えている。
その答えは、この移行をすでに成し遂げた革新的な企業に学ぶことにある。筆者らは最近の『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)誌への寄稿「『成長する製品』を戦略的に開発する法」と、HBRアイデアキャストにおけるゴビンダラジャンとのインタビューで、成長する製品(PTG)というコンセプトを紹介した。すなわち、変わりゆくユーザーのニーズに最も適した方法で成長し、拡張し、アップデートする製品だ。
アドビの「プロジェクト・プリムローズ」は、使い捨て製品から、顧客のニーズに応じて成長する適応型ソリューションへと進化する方法を示す、PTG開発の最高のケーススタディだ。ファストファッションは、すぐに時代遅れになったり、劣化したりする服を提供する計画的陳腐化ビジネスモデルを取るが、プリムローズが提供する服は根本的に異なる。適応したり進化したりする能力を持たせることにより、時間が経つにつれて価値が高まるのだ。
アドビのプリムローズに学ぶ
アドビの研究チームは2013年、天候によって見た目が変わるセーターを紹介するコンセプト動画を作成した。それはもっぱらコンセプトを紹介するもので、実際の製品はなく、セーターが変貌する想像上の未来を垣間見せる映像にすぎなかった。だが、やがて、アドビはこの映像をもとに、「グラスウィング」(Glasswing)などのプロジェクトを生み出した。グラスウィングは半透明のケースで、そこに物理的なオブジェクトを入れると、そのオブジェクトにインタラクティブなデジタルアニメーションを重ねた画像がガラスケースに表示されて、イマーシブな複合現実(MR)を生み出す。こうしたインサイトを武器に、研究チームは変貌する衣服という当初のアイデアを、プロジェクト・プリムローズへと発展させた。それはもはや単なるコンセプトではなく、デミクチュール(半カスタムメイド)デザイナーのクリスチャン・コーワンによる形あるワンピースで、電子的な仕掛けによりパターンが変わるもので、2024年のニューヨークファッションウィークで発表された。
プリムローズは購入できないが、新しい段階のライフサイクルを示している。単なるアイデアが、機能的な研究プラットフォームへと発展して、生地が反応して進化するキャンバスになりうることを証明したのだ。この種のテクノロジーは、ファッションとは同じ色や形に留まっているのではなく、よりダイナミックでインタラクティブになれることを示し、アート作品からインテリア装飾や店舗デザイン、注目度の高いイベントへと応用できる可能性を開いた。要するに、プリムローズは、未来の製品はアートとテクノロジーとデザインを融合させ、無限に適応性のあるユーザー主導エクスペリエンスを生み出せることを垣間見せてくれる。
プリムローズ・プロジェクトの進化は、計画的陳腐化とは真逆のPTG開発を成功させるための3つの基本原則を示している。
1. まず拡張可能なビジョンを持つ
当初のコンセプトは一つのユースケース(天候に対応する服)に対処するものだったが、アドビのチームはさらに幅広いポテンシャルがあることに気がついた。そして、いずれ時代遅れになるプロダクトをいくつもつくるのではなく、ファッションだけでなく、店舗のディスプレーからインテリア、そしてインスタレーションにも革命を起こしうるプラットフォームを構想した。