新たなビジネスを創造できる会社
サマリー:『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2025年3月号の特集は「新たなビジネスを創造できる会社」です。組織というのは、規模が大きくなればなるほど変化を起こすのが難しくなるものです。一方、変化が... もっと見るますます激しくなるビジネス環境にあっては、イノベーションを起こすことを絶えず求められるのも事実です。組織が過去に築いてきた強みを活かしながら、自社にとって最適な変革を実現するにはどうすればよいのでしょうか。4本の論考とともに考えます。 閉じる

大企業が積み上げてきた強みを活かすには

「ローマ神話のヤヌス神は2つの顔を持ち合わせている。過去を見つめ直す顔と未来を見通す顔である。トップ・マネジメントもかくあらねばならない」――。これは、「両利きの経営」の提唱者として日本でもよく知られるチャールズ A. オライリー3世とマイケル L. タッシュマンの論文「両利きの組織」(初出はDHBR2004年12月号)の冒頭です。この論文が書かれた時代から20年以上が経過したいま、企業はますます変化の度を増す環境の中で、生き残りを賭けたイノベーションの創出を迫られています。

 このような話になると、よく聞こえてくるのは「大企業からはイノベーションが生まれにくい」という言説です。組織というのは、成長し規模が大きくなるにつれて安定志向に陥ってしまい、既存事業に取って代わるようなイノベーションを起こすことは難しいというのです。

 一面で、それは真実なのでしょう。しかし大企業だからこその強みがあることも間違いありません。オライリーらはこう続けます。「常に過去に目配りを怠ることなく既存商品や事業プロセスを改良し、その一方で将来を見据えて、未来を切り開くイノベーションに備えなければならない」

 この警句は、次のように解釈することもできるはずです。規模の大きな企業には振り返るべき過去がある。「深化」すべきアセットがある。それを足がかりにしながら新たな「探索」を行うことで、これまで積み上げてきた強みを活かした変革を実現することは可能なのだ、と。今号の特集「新たなビジネスを創造できる会社」は、ぜひそんなメッセージを念頭にお読みいただきたい内容です。

 特集1本目「経営者の意志こそがイノベーションの原動力である」では、KDDIが通信という中核事業を軸足にしながらどのように新規事業の創出に挑んでいるのかを、代表取締役社長CEOの髙橋誠氏に聞きました。

 特集2本目の「伝統的大企業がイノベーションを実現する3つのステップ」は、大企業が持つ多種多様な組織能力や経営資源を活かしながらイノベーションの創出につなげる3つのステップを、複数の事例とともに詳述しています。

 成熟産業に身を置く企業にとっては、イノベーションは漸進的なものに留まりがちであり、変革型のイノベーションを起こすのは敷居が高いと感じるでしょう。特集3本目「成熟産業の中で変革型イノベーションを起こす4つの方法」では、まさにそのような環境下にあっても市場を再定義するようなイノベーションを実現させているプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の事例から学びを得られる一本です。

 そして特集4本目の「大企業が再成長を遂げるためのイノベーションモデル」は、漸進的イノベーションでも変革型イノベーションでもない、“第3の道”とでも呼ぶべきイノベーションの型を提示しています。

 業界を問わず、イノベーションに向けて大規模な組織を再起動させる際のヒントとして、今号のDHBRをお役立てください。

(編集長 常盤亜由子)