DEIへの逆風が強まる中、リーダーが示すべき新たな方向性
Illustration by Michelle D’Urbano
サマリー:多くの企業や実務担当者が、DEI反発の流れをきっかけに、公平な職場づくりへの取り組み方を問い直し始めている。一方で、DEI自体に改善の余地があるかどうかを検討するケースは少ない。筆者は新たに「FAIRフレームワ... もっと見るーク」を提唱し、DEIがすべての人のために達成すべきだった「公正性」(Fairness)、「アクセス」(Access)、「包摂性」(Inclusion)、「代表性」(Representation)という主要な成果を軸とした、新たな方向性を示す。 閉じる

DEIにはリセットが必要だ

 より包摂的な職場の必要性は、誰も否定できない。労働者の91%が人種やジェンダー、障害、年齢、体型に関わる差別を経験しており、94%の労働者が職場での帰属意識を重視している。

 しかし、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)に対する批判的な言説が広がり、反発が強まる中、米国の労働者のうちDEIを支持する割合は52%にまで落ち込んでいる。

 この反発に対し、筆者が話を聞いた実務担当者の対応はほぼ一律だった。おおむね現状を維持し、必要に応じて表現を変えながら、法的に制限されない限り、DEIの枠組みで行われてきた既存の取り組みやプログラムを継続する、というスタンスである。一方、DEIの取り組み自体に改善の余地があるかどうかを検討している実務担当者や雇用主は少数に留まっている。

 あらゆる人にとって健全な職場と社会の構築に尽力してきたリーダーや実務担当者には、いま、この取り組みを見つめ直すまたとない機会が訪れている。単に新たな社会政治的環境に適応するだけでなく、役割を終えた慣習を廃し、実際に効果のある取り組みに再び焦点を当てることが求められている。

 長年の研究により、現行のDEIには明確な問題があることが示されている。DEI研修は広く推奨されているものの、偏見を変えたり、差別を軽減したりする効果がないことが多い。DEIの価値を伝えるためによく採用される戦略が、逆説的にマイノリティのコミュニティに悪影響を及ぼし、リーダーのDEI支援を弱める結果を招くこともある。また、すべての人にとって良好な職場の構築を目指す取り組みが、かえって反発を引き起こし、バーンアウトを増加させ、十分な支援を受けられない人々の状況を改善できていないことも多い。

 DEIにはリセットが必要だ。より多様で、公平で、包摂的な職場が求められているが、それを実現する手段は、主流のDEIが採用してきた方法だけではない。

 筆者は、研究をもとに、同僚との対話や、DEIの実務担当者としての10年以上の経験を踏まえ、「FAIRフレームワーク」と呼ぶ代替案を考案した。このフレームワークは、DEIが本来すべての人のために達成すべきだった「公正性」(Fairness)、「アクセス」(Access)、「包摂性」(Inclusion)、「代表性」(Representation)の主要な成果を重視し、この取り組みを導く4つの原則を提示している。

よりよいモデルとはどのようなものか

 筆者が2024年『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)に寄稿した記事で指摘したように、多くの組織で採用されてきた主流のDEI戦略──専門用語だらけのコミュニケーション、バーンアウトしたボランティアに頼る分断されたプログラム、非難や羞恥心を煽る時代遅れの手法を用いた単発のワークショップ、効果測定と説明責任の欠如──は、表面的に進展している印象を生み出せればまだよいほうで、最悪の場合、大きな反発を招くこともあった。