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マネジャーは膨大な業務に押し潰されそうになっている
手に負えないほど膨大な業務を抱えるマネジャーは大勢いるが、そのような時にありがちなのは「部下にもっと仕事を任せろ」というアドバイスだ。では、任せられる仕事はすべて任せているのに、それでもなお業務量が多すぎる場合はどうすればよいのか。チームも過剰な業務に押し潰されそうになっているのなら、それ以上の業務委譲は部下に過度の負荷を押しつけるだけで、持続可能な選択肢ではない。
筆者らはコンサルティングとコーチングを通じて何百人もリーダーやチームと関わる中で、そうした場面をたびたび目の当たりにしてきた。だが幸いなことに、みずからの業務を再評価・再構成する3つの戦略を駆使すれば、限られた時間と能力を自由に使うことが可能になる。
1. 「合格点」についてチームが本当に理解しているか確認する
すべての業務で常に「A+」の成果を挙げるべき、と考えたくなるものだが、自分やチームの取り組んだ仕事がすべて「素晴らしい」結果を残しているとしたら、それは高品質を追求しすぎている。そして、結果的にチームにストレスを与え、エネルギーを浪費し、進捗を遅らせてしまう。
筆者らはリーダーに、「目的に応じた」仕事の進め方を奨励している。具体的には、それぞれの業務について、どの程度の労力を割くのが適切かを意識的に判断するのである。各業務においてどの水準に達していれば「合格点」といえるのか、どの部分は手を抜いてもかまわないのかをチームメンバーと話し合っているだろうか。
労力と時間の調整に長けていたクライアントの例として、筆者の一人(スターク)がコーチングを行ったあるCEOが挙げられる。何が重要で、何が重要でないかを理解していたこのCEOは、取締役会に対して、毎週メールでアップデートを送る予定だが、「頭に浮かんだことを書き出すだけ」(ブレインダンプ)で編集は加えないと伝えた。そうすることで、みずからの重要なリーダーシップ能力を犠牲にすることなく、取締役会にリアルタイムで情報を提供できた。
プロセス重視の文化が根づいていた別のある組織では、組織的な意思決定を行う際に、経営陣が従業員にフィードバックを求める慣習があった。従業員は組織に深く関与できることを喜んでいると思われがちで、実際にそうしたケースもあったが、全体としては、プロセス重視が行きすぎており、仕事も生活も楽になるどころか、むしろ負荷が強まっているという不満が頻繁に寄せられていた。筆者らはこの会社の経営陣に対して、課題の重要性やリスクの大きさに応じてさまざまな意思決定プロセスを使い分け、できる限り簡素化するようアドバイスした。
別の経営幹部のクライアントも直属の部下に対して、複雑でなくリスクの低い業務については、複数ページにわたる完璧な文書ではなく、手早く作成した下書きレベルの計画を共有するよう求めるようになった。彼女はまた、長い文章ではなく、できる限り箇条書きで書いたメールを送るようチームに呼びかけている。質問があれば、彼女のほうから連絡するという認識が共有されているのだ。このチームはさらに、AIを活用した業務削減方法についても検討している。
あなたやあなたのチームが多忙すぎるのであれば、まずは「働き方をどう変えるべきか」を検討する時間を確保することが重要だ。
以下の点を自問し、チームとも議論してみよう。
・時間と労力を節約するために、「Bレベル」の仕上がりに留めたり、手を抜いてプロセスを簡素化したりできる業務はないだろうか。たとえば、毎週の業務報告を短縮したり、長い文章の代わりに箇条書きのリストで済ませたりしてはどうか。プロジェクトの状況がシンプルな場合、完璧な計画書は本当に必要だろうか。
・成果物やプロセスの簡素化または削減について、上司との間で合意できる点はないか。連絡内容をより簡潔にしたり、頻度を減らしたりすることを上司に提案してみてはどうか。 情報伝達という意味では、完璧な文書ではなくラフな草案で十分ではないか。 意思決定プロセス自体を簡素化できないだろうか。
・「合格点」に達するのに必要な時間を短縮するために、AIをどう活用できるか。どのようなアプリを試しているのかをチームメンバーに尋ね、さらなる活用を促そう。たとえば、最近の会議要約アプリは非常に高性能になっている。原稿の草稿作成アプリも役立つ。筆者らも同僚とのブレインストーミングの結果、試してみたいAIツールを多数知ることができた。
マネジャーやチームが一歩下がって、「要求水準を戦略的に引き下げられる業務はないか」を再検討すれば、ほぼ常に対象業務が見つかるものだ。しかも、「合格点」を目指すよう奨励することで、チームに活力が生まれる。
2. 隠れた低付加価値の業務を特定して廃止する
付加価値の低い業務を切り捨てることの大切さは誰もが知っている。だが実際にクライアントと協働すると、低付加価値の多くの業務が無意識のうちに習慣化され、「見えているのに気づけない」という状況をしばしば見かける。また、業務の簡素化を進めてきたチームが、その取り組みを早々に打ち切ってしまい、改善のチャンスを逃しているケースもある。さらに深く掘り下げれば、より多くの時間を節約できる余地があるはずだ。
筆者らの経験上、周囲に任せたり、削減したりできる業務をすべて特定するためには、2段階の「見直し」が不可欠だ。チームで取り組めるシンプルな業務委譲プロセスを紹介しよう。
(1)業務委譲に関するセッションに先立って、廃止できる可能性のあるすべての業務を考えておくようチームメンバーに依頼しておこう。実際のセッションでは、最初のうちは、自分ではなく周囲の人がやめるべき業務が挙がることも多いが、それがウォームアップとなるため、そのままでかまわない。
(2)次にもう一段掘り下げて、「もし週の勤務日数を1日減らさなければならないとしたら、自分はどの業務をやめられるか」と問いかけよう。この段階で、ブレークスルーとなる気づきを得られるケースが多い。
当然ながら、業務を整理する際には顧客や同僚、財務面に悪影響が及ばないよう留意する必要がある。筆者の一人、ファン・ルーフが担当したあるクライアントは、病院で複数の看護師チームを率いている。彼女は、事務作業に追われて患者のケアに向き合う時間を取れていなかった看護師チームに対して、患者に提供するケアの質を落とすことなく業務負荷を軽減するにはどうすべきかと問いかけた。すると、深い議論の末に、患者一人ひとりに記入が義務づけられていた100項目のチェックリストを廃止し、代わりに通常と違う点のみを記録するというアイデアが浮上した。この変更によって、チームメンバー1人当たり週3~4時間の業務を削減でき、より多くの時間を患者のケアに回せるようになった。
付加価値の低い業務が多いのは、情報が氾濫している領域だ。大量の情報が共有されているが、それが読まれることも実行に移されることもない、という状況である。
ファン・ルーフは、キャリア初期に小売り企業のCEOを務めていた当時、そうした状況を経験した。報告やコミュニケーションがあまりにも多すぎて、リーダーたちは皆、不満を募らせていた。そこでファン・ルーフのチームは、翌月のすべての報告業務をいったん廃止し、そのうえで、絶対に欠かすべきではなかった要素について議論することにした。その結果、報告業務のおよそ40%を削減できた。
前述の病院の例のように、事務作業および、長大で煩雑な書類と承認プロセスも、付加価値の低い業務が集中しやすい領域だ。また、「プロセス重視」の文化を持つ組織も、さらにシンプルに対処できるはずの意思決定やタスク、プロジェクトなど、あらゆる業務のプロセスを重視しすぎる傾向にある。さらに、文書のレビューや手直しも、「合格点」レベルで完了すべき業務に不要な時間をかける要因となる。もちろん、開催する必要のない会議や、大幅に時間を短縮できる会議が多数存在することは言うまでもない。
どの業務であれば、試しに停止・変更・削減できそうだろうか。大切なのは、仮に本当に必要な業務を廃止してしまっても、いつでも元に戻せるという点だ。
筆者らの経験上、意思決定の原則において「双方向の扉」が確保されていれば、チームは業務の停止や簡素化を安心して受け入れられる。「この業務を廃止したり、進め方を変えたりしても、必要ならすぐに元に戻せる」とチームに伝えよう。
3. 対応可能なタイミングを戦略的に減らす
リーダーは常に要請に対応できる状態でいるべきだと思っている人が多い。だが、度が過ぎると、そのせいでリーダーとの関わりが増え、チームメンバーが必要以上にリーダーに依存するようになってしまう。そのような時は、少し距離を取るほうが、チームメンバーの行動の自由度が高まり、それによってリーダーの側も自分の時間も確保しやすくなる。
筆者らが関わったプロフェッショナルサービス業界のあるシニアパートナーは、常に多くのプロジェクトに関与しており、仕事量に圧倒される生活を送っていた。そこで筆者らは、すべてのプロジェクトに全力で取り組むという彼女のスタンスに疑問を投げかけ、2つの新たな関わり方を提案した。1つ目はプロジェクトの立ち上げの場には参加するが、プロジェクト期間中は1~2回のチェックインに留め、終了時のセッションには出席するというもの。2つ目は、アイデアや解決策をブレインストーミングする際に、「依頼された時だけ」アドバイザーとして参加するという関わり方だ。
関与の仕方を変えたことで、彼女自身はもちろん、チームも負担を大幅に軽減することができた。彼女は複数のプロジェクトで一歩引いた立場に回り、チームは自分たちが主導して業務を進められるという自信を得たのである。
以下のような点を自問してみよう。
・自分が深く関わりすぎているプロジェクトや取り組みはないか。完全に手を引けるものはあるか。
・自分の関与の度合いを減らしつつ、同僚が必要とするサポートを提供するにはどうすればよいか。
・より非同期的な情報共有の方法はないか。
・会議のうち、自分に関係のある部分だけに参加する、または重要な意思決定を行う会議にだけ参加することは可能か。
・長時間の会議の代わりに、直属の部下や同僚との15分間のキャッチアップへの切り替えを試せないか。
可能な範囲で自分の業務を減らす(そして、チームメンバーの業務削減にも協力する)ために、さまざまな工夫をしてみよう。また、その際には理由も伝えて、同僚たちに意図を正しく理解してもらう必要がある。
* * *
膨大な業務を抱えていて、しかも仕事をチームに委譲できない場合でも、余力を生み出す方法は存在する。いまこそ、自分の業務内容とその進め方を見直し、意識的に行動すべきタイミングだ。
真のニーズに見合った適切な労力を投じて「目的に応じた」形で働く、惰性で続けてきた低付加価値の業務をやめる、「対応不可」の状態を意図的につくる──こうした工夫によって、自分自身もチームも貴重な時間とエネルギーを確保し、本当に大切なことに取り組めるようになる。
"When You're Overloaded - and Delegating Isn't an Option," HBR.org, April 04, 2025.