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VRIOフレームワークの適用
経済的価値(V)、希少性(R)、模倣困難性(I)、組織(O)のそれぞれに関する問いを1つのフレームワークにまとめ上げれば、ある経営資源またはケイパビリティを利用して得られる企業の利益ポテンシャルを把握できる。これを行ったのが表3.3である。表3.4には、VRIOフレームワークと強みや弱みの関係を示した。
企業は、経済的価値のない経営資源やケイパビリティを用いて戦略を選択・実行しても、外部環境に存在する機会を活用したり脅威を無力化することはできない。そのような経営資源を活用するための組織体制を築き上げていっても、コストは増大し、売上げは減少するばかりである。
したがって、経済的価値のない経営資源は、企業にとって弱みである。この場合、企業としては、弱みの克服に取り組むか、戦略を選択・実行する際に弱みを避けることしか選択肢がない。実際に弱みと言えるような経営資源やケイパビリティを用いた場合、企業はそのような経済的価値のない経営資源を保有しない企業や、経済的価値のない経営資源を戦略の立案や実行に用いない企業に対し、競争劣位となる。
ある経営資源やケイパビリティに経済的価値はあるものの希少性がない場合、それを戦略の立案・実行に用いることは競争均衡をもたらす。このような経営資源は一般的に競争優位はもたらさないとしても、それを活用しないと競争劣位に陥る可能性がある。その意味で、価値を有しているが、希少でない経営資源も、組織の強みと言ってよい。
次に、ある経営資源やケイパビリティに経済的価値や希少性はあるものの、模倣コストが高くない場合、その経営資源を活用することは、一時的競争優位をもたらす。このような経営資源を活用した企業は、結果的に大半の企業よりも先にその経営資源を活用することになるので、重要なメリットとして先行者優位を獲得する。しかしこの場合も、競合がいったん先行企業の競争優位を認識すれば、同じような戦略の実行に必要な経営資源を、直接的複製または代替を通して、先行企業に対してコスト劣位に置かれることなく獲得・開発できる。先行企業を模倣し、先行企業に対抗するために必要な経営資源を確保する企業が増えていくと、先行者が当初獲得した競争優位は徐々に失われていく。以上を考慮すると、このような経営資源やケイパビリティは少なくとも強みであり、一時的にせよ企業固有能力(distinctive competence)だと言える。
最後に、ある経営資源やケイパビリティが、価値を有し、希少であり、模倣コストが高い場合、それを活用することは持続的競争優位をもたらす。企業がこのようなかたちで競争優位を獲得した場合、その企業の経営資源やケイパビリティを模倣しようとする競合は、大きなコスト上の劣位をこうむる。先ほども述べたとおり、この場合の競争優位は次のような要因によって実現している可能性がある。その企業独自の歴史的条件、模倣すべき経営資源に関する因果関係不明性、経営資源やケイパビリティの社会的複雑性、あるいはその企業が保有する特許、である。いずれにせよ、このような経営資源を活用する企業に対し、競合が模倣によって対抗しようとしても、その競合は競争優位はもちろん競争均衡も確保できない。仮に模倣に成功し、同じような経営資源やケイパビリティを獲得・開発できたとしても膨大なコストがかかり、結果的に競争劣位に陥る。このような経営資源やケイパビリティは強みであり、持続的企業固有能力(sustainable distinctive competencies)と言える。
VRIOフレームワークにおける組織(O)に関する問いは、以上の(V・R・Iに関する)分析を行ったうえで、その結果を修正する要因として働く。たとえばある企業が、価値を有し、希少で、模倣コストの高い経営資源やケイパビリティを持っていながら、その経営資源を生かしきるような組織体制を築かなかった場合、競争優位へのポテンシャルが部分的に失われてしまうかもしれない(かつてのソニーの場合などがそうである)。あるいは、その企業の組織体制が非常に好ましくない場合、競争優位を獲得するポテンシャルを持っていながら、競争均衡または競争劣位に陥る可能性すらある(表3.3、3.4の適切な組織体制(O)の項を参照)。
【関連記事】
VRIOフレームワークとは何か(1)──経済的価値に関する問い
VRIOフレームワークとは何か(2)──希少性に関する問い
VRIOフレームワークとは何か(3)──模倣困難性に関する問い
VRIOフレームワークとは何か(4)──組織に関する問い
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