リーダーシップスタイルが通用しなくなった時、影響力を取り戻す方法
Illustration by Jennifer Tapias Derch
サマリー:リーダーとして成功を重ねるうちに、自分にとって自然なスタイルが定着しがちだが、それが突然通用しなくなることがある。スタイルの使い分けは難しいが、環境の変化を見極め、意図的に新たなアプローチを試みること... もっと見るで、フォロワーシップを維持し、信頼を再構築することができる。本稿では、既存のリーダーシップスタイルが機能しなくなった時にどう適応すべきか、5つの具体的な戦略を通じて解説する。 閉じる

リーダーシップスタイルが機能しなくなったらどうするか

 上級職になるにつれ、性格や過去の成功体験によって、特定のリーダーシップスタイルを他のスタイルよりも自然に取れるようになる。そして、その好みのスタイルはいつしかあなたのブランドとなり、周囲からもそれを期待され、ますますあなたらしいものになっていく。

 しかし、好みのアプローチが突然フォロワーシップ(リーダーを補佐する行動や役割)を得られなくなってしまったらどうなるだろうか。スタイルを調整しなければ、あなたはリーダーとしての信用を失ってしまうだろう。とはいえ、馴染みのないスタイルを取れば、振る舞いが不自然になり、部下を混乱させてしまう可能性もある。

 リーダーシップスタイルを使い分けることは、専門知識や戦略的な能力を向上させるよりも間違いなく難しい。それは、自分自身の変革を伴うためだ。それに昨今は、リーダー自身がコンフォートゾーンを出て成長するつもりがなければ、部下に難題に挑ませることなどできない。

 筆者は、エグゼクティブコーチとして、リーダーシップスタイルに関する適応能力を高める勇気を持つことの大きな価値を目の当たりにしてきた。驚くべきことに、みずからのスタイルの幅を広げるリーダーは、フォロワーシップを維持するだけでなく、練習を重ねるほど機敏な対応が容易になる。そこで本稿では、従来のリーダーシップスタイルが機能しなくなった時にうまく対応するための5つの戦略を紹介する。

ビジネス、ステークホルダー、自分自身の変化を精査する

 それまでのリーダーシップスタイルが影響力を失う時というのは、通常、あなたを取り巻くシステムに何らかの変化が生じた時だ。それを見逃さないために、あなたが担当するビジネス、あなたが管理し影響を与えているステークホルダー、そしてあなた自身という3つの領域で急激な変化がなかったかどうかを探ろう。

 市場の動向、顧客ニーズ、製品戦略に変化がなかったか、自問してみよう。ステークホルダーがあなたを補佐するために、これまでと異なる何かが必要になっていないか。自分自身に与えられた新たな責務によって、自信や存在感に変化を求められていないだろうか。

 筆者がコーチを務めたある事業部長は、チーム全体の士気が下がり、社内の顧客から仕事の遅れについて苦情が上がっていることに気づいた。そこでビジネスや主要なステークホルダーの変化を探ると、他社との競争のためにたえず戦略を転換していたせいで、チーム内で優先事項に関する混乱が生じていた。同時に、社内の関係部署から、共同プロジェクトに関して圧力がかけられていた。また、昇格したばかりの事業部長は、皆によい顔をしようとして、明確なビジョンに基づくマネジメントや、サービス範囲の明確化をしていなかった。その結果、チームは重要な戦略的パートナーではなく、ただの御用聞きだと批判されるようになってしまった。

 この事業部長は、ビジネス、ステークホルダー、そして自分自身のレベルで精査した結果、チームが約束を守り、信頼を取り戻すためには、明確さと確信に満ちたリーダーシップが必要であると気づいた。その意図を持って自分のスタイルを変えたことで、チームとステークホルダーの双方との関係を立て直し、エンゲージメントを高めることができた。

使いすぎているスタイルを見極め、新しいスタイルを試す

 あなたが好んで使うスタイルを知るには、心理学者ダニエル・ゴールマンの研究で示された以下の6つのリーダーシップスタイルを参考にしよう。

強制型(命令や強制を用いる)
ビジョン型(ビジョンを掲げ従わせる)
ペースセッター型(高い水準を求める)
関係重視型(個人的な結びつきを好む)
民主型(合意による意思決定を目指す)
コーチ型(個人の成長を優先する)

 好みのスタイルには、あなたの性格や強み、これまでの上司やメンターからリーダーシップについて教えられてきたことなど、いくつかの要素が影響している。しかし、慣れや安心は自己満足を生む。一つのアプローチに頼りすぎると、ニーズの変化に伴い、今後のフォロワーシップを制限してしまいかねない。

 筆者のコーチングのクライアントに、生え抜きのCEOがいた。社内を知り尽くし、みずから張り切って仕事を片づけようとする闘志満々の性格により、現場好きで極めて戦術的な課題に関与したがった。このようなペースセッター型(現場主義、細部志向、自身の基準による卓越性の追求)は、会社が小さく、経営陣の顔触れが変わらず、それが期待されていた間はうまく機能していた。

 しかし、事業が拡大し、成熟した運営体制を構築するために新しいリーダーたちが雇われると、彼の関与がボトルネックとなった。また、彼のスタイルは、単純な問題を解決するには効果的だったが、複雑化する問題に対処しようとするマネジャーたちにとっては邪魔だった。彼がリーダーとしての能力を維持するためには、チームのオーナーシップを奨励するビジョン型と、将来の需要に備えて従業員に成長を促すコーチ型という新たなスタイルを試す必要があると考えるに至った。

スタイルの変更について透明性を保つ

 スタイルの幅を広げることは洗練されたリーダーシップの証だが、成長痛を覚悟しなければならない。新しいスタイルは、自分が不慣れなだけでなく、何の前触れもなく行えば、周囲も混乱しかねない。何を、なぜ変えようとしているのか、その背景を共有しないと、突飛な行動と見なされるばかりか、信頼を失う危険性もある。

 チームとの連携を確実にするためには、それまでの社会契約をもとに、あなたの意図と、どのように試験的にリーダーシップの幅を広げていくかを説明する。たとえば、次のように伝えよう。

「この1年、皆で追求してきた成果を達成できていないのは、私のいつもの癖に原因があることに気づきました。私は仕事が進んでいないと思うと、つい手を出して自分でやろうとしてしまいます。でも、それは互いにとってよくないことでした。これからは、皆さんのオーナーシップを引き出すような質問をしたり、意識的に仕事を配分したりして、もっと皆さんに任せようと思っています。会議で私が静かにしていたら、それはやる気がないのではありません。質問ばかりしていても、それは皆さんを試したいのではありません。皆さんの話を聞き、私ではなく皆さんが仕事を進め、問題を解決できるように、後押ししようとしているだけなのです」

 このスタイル転換が皆のためになることを念押ししよう。「より意図を持ったコーチになることで、私は自分が抱える大きな問題にもっと時間を使えるようになるだけでなく、皆さんを信頼していること、皆さんに自分の能力を発揮する機会を与えたいと思っていることをわかってもらえると考えています」

 みずからスタイルの幅を広げる必要性を認めることは、自分をさらけ出すことのように感じられるかもしれない。しかし、勇気と謙虚さ、そして弱点を認める模範を示すことこそが、チームの力を強化し、あなたのフォロワーシップを高めることを忘れないでほしい。

実践し、フィードバックを求め、反発を予想する

 意図を明確にしたら、小さくても目に見える形で実験を始める。新しいアプローチに対するフィードバックを求めよう。不満を示す部下がいても落胆する必要はない。欠陥はあっても以前のスタイルに慣れていたということだろう。リーダーシップスタイルの変更は、それに適応するメリットを理解するまでは歓迎されないものだ。

 別のクライアントである技術部門のシニアバイスプレジデント(SVP)は、会社の競争力を高めるためにエンジニアリングプロセスの改革を担っていた。彼のスタイルは、ビジョン構築と民主的な意思決定に根差していた。チームに途方もないアイデアを想像させ、それを実現する方法を健全で包括的な議論を通して考えるようチームを動機づけていた。

 チームは心理的安全性やサポートを感じていたが、最近プロジェクトがいくつか失敗に終わったため、SVPの業務成熟度に対する他のステークホルダーの信頼度が低下した。「できない約束をし、結果が伴っていない」という悪評が立ったが、原因は2つ、彼のリーダーシップアプローチにあった。それは、チームに批判的なフィードバックを与えたがらないことと、他の幹部への定期的かつ詳細な進捗報告を避けていることだった。彼の名誉のために言うが、彼はアプローチを一変させて、これらの課題に対処した。

 彼は、チームを客観的に評価するために、「もしチームを一からつくり直すとしたら誰を再び採用するか(あるいはしないか)」を自問した。次に、メンバーそれぞれのギャップを見極め、具体的なフィードバックを通して指導した。以前はそれを避けていたために彼らの可能性を狭めていたことを認めたのである。また、チームがいつまでも議論を続けていた時は、結論を出して行動に移すための道筋をつけた。最後に、ステークホルダーからの関心の高い主要な指標に基づいて定期的に報告を行う計画を立てさせた。

 SVPのチーム全員がこうしたスタイル変更を歓迎したわけではない。変更のせいで仕事が増え、個人の説明責任も増えたからだ。しかし彼は、やりすぎを防ぐための調整策としてフィードバックを求め続けた。そして、反発を進化に必要なものとして受け入れながら実験を続け、リーダーとしての幅を広げる模範を示した。

習熟するよりも多様なスタイルを養う

 新しいリーダーシップスタイルをいくつか試している時に、しっくりこないスタイルがあっても落胆することはない。いざという時の選択肢が増えるように、めげずに多様なスタイルを練習し続けよう。そして、個人的な好みではなく、目的に基づいてアプローチを選択するようにする。そうすることで、与えられた状況におけるリーダーシップ能力が高まるだけでなく、将来のニーズに備えて、適応力を積極的に鍛えていくことができる。

 刻々と変化する今日の職場において、適応力があることは戦略上、大きな優位性となる。最近の調査によると、企業内学習担当者の60%以上が、リーダーは将来のニーズに応えるために行動の適応力を高めなければならないと考えている。また、最近では、全社の足並みを揃えるために不可欠であることから、俊敏性を醸成する任務を負う、上級管理職を新設する企業もある。しかし、多才になるには自分の弱点を認める勇気が必要で、中核となるアイデンティティを手放さなければならない場合も多い。

 たとえば、あなたが信頼関係を構築してから期待値を設定するようにしてきたリーダーであれば、最初に断固とした権威的な態度を取るスタイルは、自分の価値観や自分らしさを否定するものに思えるかもしれない。しかし、誠実だと思っているものに固執するあまり、強制型が効果的な状況であっても、それを使う機会を逃す可能性がある。たとえば、危機的な状況で明確な行動を指示すべき時や、新入社員に(自分勝手な基準からではなく)何を期待されているかを理解させたうえで成長させたい時などである。

 スタイルを使い分ける適応力を身につけるには、常に自分らしく振る舞いたくなる欲求を捨てよう。多才なリーダーは、目的に応じて、一日のうちに6つのスタイルすべてを使うこともよくある。場の空気を読み、その時求められているのが、決断力なのか、観察力なのか、促進力なのか、それとも別のものなのかを判断し、それに応じた態度を取り、効果を見よう。

 どのようなリーダーシップの役割においても、あなたが周囲に示すスタイルは、時に仕事の中身以上に、成功を左右する重要な役割を果たす。自分のスタイルが突然、望ましい影響力を失った時、どうすれば自分らしさを失わず、部下を混乱させることなくスタイルを変えられるのか、咄嗟にはなかなかわからないものだ。上記の戦略を使うことで、その時々のスタイルを最適化し、将来の変化に対応できる適応範囲を広げることで、フォロワーシップを維持できるだろう。


"When Your Go-To Leadership Style Stops Working," HBR.org, May 30, 2025.