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戦略がうまくいかない時、最も大きな影響を及ぼしているグループ
あるメディア企業のCEO(仮にジョンと呼ぶ)と仕事を始めた頃、依頼を受けて、彼が上級リーダー20人に自社の戦略を発表する様子を観察した。彼の話す内容には説得力があった。変革の必要性を明確に示し、その野望への自信にあふれ、優先事項に納得感があった。会場は高揚した雰囲気で、彼が戦略の柱を説明するたびに多くの出席者が頷いていた。暗黙の指示も間違えようがなかった。「論理を理解し、不明な点を質問し、仕事に取りかかれ」
ジョンが退席した後、感想を聞いて回ったが、同意や確信は予想したほど聞かれなかった。ある地域統括は「依然として旧来の活動を報奨する制度になっている」と述べ、ある部門長は「組織の能力不足への対策がない」と指摘した。また、別のリーダーは「戦略は信じるが、自分が何を変えるべきかがわからない」と漏らした。
これはよくあるパターンだ。戦略がうまくいかない時、人は、明確さや遂行力に欠けると経営陣を責め、進捗を邪魔していると中間管理職を責め、役割を果たしていないと現場の従業員を責める。しかし実際に影響を及ぼしているのは、えてしてまったく別のグループである。それは経営チーム(Cレベル幹部)の一ランク下の「準リーダーシップチーム」(ELT: extended leadership team)である。事業統括、地域CEO、部門長などで構成される。
これらのリーダーは、優先すべき顧客、構築すべき能力、資源配分先、改善すべき活動やプロセスについて日々選択を行っている。それにもかかわらず、彼らは戦略の策定者ではなく、受け手として扱われることが多い。その結果は予想通りで、取締役会ではまとまったように見えた戦略が、直下の階層以下で失敗するのである。
研究もこれを裏づけている。戦略実行に関する188の研究のレビューによれば、このリーダーシップ層が一つの明確な(そして成長を続ける)グループとして認識されることは稀である。124社の幹部(CレベルおよびELT)と中間管理職合わせて4000人を対象としたある調査では、自社の戦略的優先事項上位3つを挙げることができたのはわずか28%だった。特に差が顕著だったのは、Cレベル幹部(51%)とELT(22%)の間である。
ここに明らかなチャンスがある。経営幹部とELTが連携した戦略的システムとして動けば、企業は首尾一貫した実行力、迅速な適応力、強力な推進力を獲得できる。以下はそれを実現する4つの方法である。
戦略の共同策定
リーダーは、大規模なヒアリング活動や、クラウドソーシング型のアイデアプラットフォーム、数百人から数千人規模の全社ワークショップといったオープン戦略施策を増やしている。こうした取り組みは活力や洞察を生み出し、従業員に発言する機会を与えるが、ELTの深い関与を促すことは少ない。
インプットの幅を広げても、最も重要な部分の深さを埋めることはできない。戦略は、プロセスの早い段階でELTが前提、選択肢、トレードオフの策定に関与するほど強固で実行可能なものになる。彼らは戦略が実際に着地できるかどうかを決める市場、顧客、そして能力に最も近い立場にあるからである。
筆者はまず、上級リーダーがELTをもっと関与させない理由を調べることから始めることが多い。ジョンに尋ねると、彼は「プロセスが長引き、アイデアより問題点が浮上し、戦略の弱点が露呈する」といった懸念を挙げた。視点を変えて、戦略の成功に必要なことを考えるよう促すと、これらの懸念がむしろレジリエンスの構築、連携の強化、実行リスクの早期予測によって、戦略を強化しうることに気づいた。
以下を試してみよう。
・ELTを関与させることに後ろ向きな理由を探り、新しい可能性を検討する。
・仮説策定の早期の段階でELTメンバーを参加させ、戦略で対処すべき問題点を特定する。
・ELTが担当する事業の顧客セグメントや地域市場ごとの「成功」の定義にELTを関与させる。
・イノベーション、効率性、リスクのトレードオフを明確化する定期セッションを計画する。
戦略的判断力の醸成
ELTメンバーは成果を挙げ、事業部を立て直し、複雑な業務を遂行することによって成長する。彼らの強みは実行力にある。一方、システム認識力、パターン認識力、不完全な情報とトレードオフが避けられない状況での選択能力を要する戦略的判断力を鍛える機会はごく限られていた。
ジョンは自社のELTにそれを認めた。彼らの業務感覚の優秀さは理解していたが、視野を広げる必要性を感じていた。隣接市場のシグナルを察知し、顧客の行動変容がポートフォリオ全体に及ぼす影響を探り、さまざまなシナリオにおける計画の有効性を検証できるようになってほしかった。研究によれば、複数の未来像を想定するリーダーは、戦略的洞察力や不確実性への適応力が高く、単一の経路予測への過信を抑制できる。ジョンのELTも視野を広げるにつれ、戦略議論へのELTの貢献の質と深さが向上した。
この能力は2つのレベルで働く。ELTは経営幹部とともに会社の方向性を定め、同時に、担当する領域(市場、フォーマット、顧客セグメント、部門)で戦略的判断を下す。一方のレベルでの判断力を強化すると他方のレベルも強化され、リーダーが目前の収支と長期的なポジショニングを関連づける助けになる。
私が顧問を務めたあるテクノロジー企業では、ELTメンバーの戦略的判断力を磨くために、衰退製品のポジショニング変更、新規市場への参入、顧客体験の再設計といった四半期ごとの「戦略的課題」を活用していた。このような演習によって、リーダーたちは不慣れな状況にさらされ、前提を問い直し、パターンを見出し、局所的な決定を会社全体に結びつけるために必要な思考の幅を広げることができた。このアプローチによって、2年以内に全社横断的な重要な役職に昇格したELTリーダーの数が倍増した。
経営幹部は経験だけに頼らず、意図的に学習の環境づくりに投資して戦略的判断力を高めるべきだ。ELTメンバーにも、多様なメンタルモデルを持つ同僚たちとアイデアを試し、思考を広げ、決定を検証する体系的な機会を提供すると有益である。経営幹部が主要な選択の背景にある理由を共有すると、ELTメンバー(や他の従業員)は意思決定に影響を与えたトレードオフを理解でき、この文化はさらに強化される。
以下を試してみよう。
・部門横断的なシナリオセッションや「課題解決チャレンジ」を活用し、不確実性の下での選択や仮説検証を共同で実施させる。
・ELTメンバーをローテーションで事業横断的な取り組みに参加させる。新たな市場や顧客と接するプロジェクトを割り当て、領域ごとの決定と組織全体の優先事項とを効果的に結びつけさせる。
・意思決定プロセスに振り返りを組み込む。重要な決定や市場での動きがあった後に簡単な振り返り会議を実施し、何が起こり、何を想定し、次にどのようなパターンが生じうるかを分析させる。
目標は、ELTメンバーが短期目標と長期的ポジショニングのように、異なる時間軸にわたって意思決定を関連づけられるようになることである。他社や他業界に知見を求めさせ、選択の根拠となる前提条件を疑わせる。研究によれば、同時に複数の視点を持つリーダーは、不確実性への対応力に優れ、長期的に優れたパフォーマンスを維持する。
整合性の取れたカスケードダウン
戦略が機能するのは、リーダーたちが求められる選択肢を理解し、行動に移す準備ができたと感じた時である。こうした社内の整合が偶然起こることは稀である。多くのELTメンバーはインセンティブ、指標、権限が依然として企業の未来ではなく過去を反映する体制の中で仕事をしている。ある調査では、自身のインセンティブ(特にKPI〈重要業績評価指標〉)と組織の戦略目標が整合していると答えた上級リーダーはわずか26%にすぎなかった。
ジョンは、みずからの組織にこの矛盾を認めた。経営幹部の同僚たちが部下であるELTメンバーに送っているシグナルを確認したところ、業績評価に矛盾が見つかった。つまり、経営幹部が定義した役割、合意した目標、設定した指標によって、リーダーたちは依然として過去の優先事項に縛られていた。企業戦略はデジタルフォーマットと未開拓の顧客層の拡大を掲げていたが、ELTメンバーは、従来の指標に基づいて評価されていた。整合性を図るには新たな計画だけでは足りなかった。リーダーの意思決定を左右するインセンティブ、評価基準、ガバナンス慣行の改革が必要だった。
ジョンと他の経営幹部がELTメンバーと、譲れない事項、リーダーの裁量範囲、そしてリーダーの意思決定が戦略とどう結びつくかをすり合わせると、効果はすぐに現れた。ELTメンバーはより早く障壁を表面化させ、明確なトレードオフを実行し、自信を持って行動するようになった。戦略が自分の決定をどう方向づけ、自分の仕事が全体にどう貢献するかが理解できるようになったため、戦略へのコミットが強化されたのである。この転換は活力を生み出した。
2つの重要施策がシステム全体の整合性を強化する。
・意思決定の指針となる全社的な譲れない事項を限定して明確にし、それに基づいてELTリーダーに各領域で行動する権限を与える。
・成功の共有に正式な重みづけをし、連携を具体的な報酬に結びつけるようインセンティブと組織運営のメカニズムを調整する。
「結合組織」の強化
戦略は、最上位のリーダーたちが共同体のように連携して動く時に勢いを得る。しかし、ELTは連合体を思わせる。おのおのが大規模な領域を運営し、独自の指標やリズムを持ち、プレッシャーを抱える有能な人材の集合体である。その自律性は業績を押し上げ、健全な競争を引き起こすことはあるが、企業の結束力を強化することは稀である。
ジョンはこの力学を理解していた。事業統括たちは市場を熟知した有能な運営者だったが、主に担当事業のチャネルや地域の優先事項に集中していた。デジタル、放送、新興フォーマットでの成長機会を逃したのは、システム全体を見渡す権限を持ったリーダーが一人もいなかったからである。そこでジョンは、連携を強化するある単純な仕組みを導入した。それは、「エンタープライズスチュワード」(企業レベルの管理者)という持ち回りの役職である。スチュワードは、未開拓セグメントの視聴者拡大やマルチプラットフォームコンテンツ開発など分野横断的な優先課題を一定期間担当する。この役職が彼らの認知度、正当性、共通の責任感を高めた。
数カ月もしないうちに、ELT内の連携パターンが変化し始めた。リーダーたちは地域のインサイトとデジタル能力を融合させた編集企画で協働し、顧客行動データを交換し、チーム間で人材を異動してイノベーションを加速化させた。そして組織の壁を越えてともに働き、考え続ける強力な習慣を築いた。研究によれば、全員がともに責任感を持って行動する上級リーダーは、高い自主性、心理的安全性、組織的適応性を育む。連携はリーダーシップの増幅器となり、各部門の強みを拡大すると同時に、実行を遅らせる摩擦を減少させるのである。
2つの施策でELT内のこの「結合組織」を強化できる。
・全社共通の優先事項をつくり、リーダーにスチュワードシップの役割を持ち回りで割り当て、分野横断的な優先事項を担当させる。これによってELTの結束を生み、通常は影響力を行使することのない事業領域を経験させる。
・リーダーたちが境界を越え、資源を共有し、能力を結集して全社的な成果を挙げた時にはそれを称賛し、連携による成功を見える化する。ストーリーや象徴は社内で広く伝わり、短時間で期待や規範を形成する。
上級リーダーが共通の責任感や相互信頼を通じてつながりを感じると、企業は戦略を並列の取り組みの集合体ではなく、求心力として捉えるようになる。そして境界を越えたアイデア、人材、意思決定の移動を楽に行えるようになる。この集合的リズムは時間とともに自己増幅し、企業は、ゆるくつながった部分の集合体ではなく、単一のシステムとして機能するようになる。
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ELTは、その選択、強化する優先事項、推進力によって、総体として戦略がどう具現化されるかを決定する。経営幹部が戦略策定の輪を広げ、ELTリーダーが各領域の思索家、スチュワードとして前に出る時、企業は成功に何が必要かについて、より深く、より確固たる知性を獲得する。共同策定、戦略的判断力、整合の取れたカスケードダウン、強固な結合組織によってこのパートナーを強化することにより、複雑性を乗り越え、有意義な進展をもたらすリーダーシップシステムが築かれる。戦略は、一方通行の発信から、共同の試みに変わり、それを実行、所有、推進するのは、他ならぬその成功に最大の影響力を持つ人々である。
"Bring Your Extended Leadership Team into Strategy Decisions," HBR.org, December 23, 2025.







