メンター制度をすべての従業員に提供すべき理由
Illustration by Diana Bolton
サマリー:結果さえ出せば昇進できると考えるような優秀な従業員がさらなる高みを目指す際、過信が成長の足かせとなることがある。真のリーダーシップを養うには、客観的な視点を与えるメンタリングが不可欠だ。しかし、多くの組織では一部の選ばれた人材への提供に留まっており、その潜在的な恩恵を十分に活用できていない。本稿では、メンタリングを個人の開発ツールから組織全体の文化へと昇華させ、全従業員のパフォーマンスを最大化させるための戦略を提示する。

優秀な従業員が出世するために必要なメンタリング

 BTグループおよびその子会社での15年にわたるキャリアの中で、マリア・ツィエルケゾスは、マーケティングチームのシニア職を歴任し、最終的にはBTビジネスのパートナーシップ・アンド・ポートフォリオ・マーケティングのグローバルヘッドに就任した。しかし、彼女のキャリアを正しい道へと導いたのは、ある重要な対話だった。

 キャリアの初期段階で昇進が見送られた際、マリアは不意打ちを食らったような衝撃を受けた。彼女の実績は申し分なく、パフォーマンスさえ出していればおのずと評価されると信じていたからだ。上司からのフィードバックは、簡潔だが示唆に富むものだった。「いまはまだ、君を昇進させるわけにはいかない」

 この「まだ」という一言が、マリアのキャリアにおいて最初のメンタリング関係を築くきっかけとなった。それは彼女の将来性だけでなく、プロフェッショナルとしての成長のあり方に対する認識をも一変させた。

 マリアは上司のサラに、成長のために何が必要かを明らかにしてほしいと求めた。サラは、マリアがまだシニアの役割に求められる振る舞いを示せていないと説明する一方で、自分が着目しているのはマリアの技術的なパフォーマンスのため、必要なサポートを提供するのに最適ではないという意見も伝えた。代わりにサラは、マーケティングディレクターのケイラとの面談を設定し、ケイラはマリアのメンターになることを申し出た。

 ケイラとマリアは、職場におけるマインドセットと行動に関する重要な領域について取り組んだ。マリアが課題に対して戦略的にアプローチするのではなく、強引に突破しようとする傾向があるとケイラは指摘し、力ずくではなく慎重に解決する方法をともに検討した。また、ケイラはマリアがより柔軟な思考を養えるよう支援した。2人は、マリアのソフトスキルを磨き、シニアの役割において不可欠となるリーダーシップや対人行動能力を向上させていった。

 ケイラによるメンタリングの結果、マリアは高度な自己認識能力を身につけ、本能的な反応を内省できるようになった。1年半後、彼女はかつて逃した昇進を勝ち取り、その後同社で長期にわたり成功したキャリアを築くこととなった。

 高い業績を上げ、野心を持っていたにもかかわらず、マリアはそれまでメンタリングを提案されたことがなく、それが選択肢としてあることすら認識していなかった。「メンタリングやコーチングについて言及した人は誰もいなかった」と彼女は筆者に語った。「すべてが順調にいっているように見える人に対して、それを勧める必要があるだろうか」

メンターシップがすべての従業員にもたらす恩恵

 マリアの経験は、組織でよく見られる盲点を浮き彫りにしている。多くの優秀な従業員は、結果さえ出せば昇進できると考え、能力開発を自分一人で模索することを強いられている。しかし現実には、彼らこそメンタリングが提供するフィードバック、客観的視点、そして挑戦の機会を必要としているのだ。

 メンタリングの普及率は高く、ビジネス・メンター協会(ABM)によれば、英国の中堅企業と大企業の92%がメンタリングを提供しており、メンタークリック(MentorcliQ)によれば、2024年にはフォーチュン500の98%が目に見える形でメンタリングプログラムを実施している。それにもかかわらず、実際の利用率は低い。ガートナーの調査では、利用可能なプログラムを活用している従業員は24%に留まっている。世界的な調査でも同様の傾向が見られ、従業員がメンタリングプログラムに参加しない理由として、時間の制約、不明確な期待値、不十分なトレーニング、プログラムの認知度の低さなどが挙げられている。

 一部のグループが他のグループよりも恩恵を受けている現状もある。将来のリーダー候補に選ばれ、早期昇進コースに乗った高い潜在能力を持つ人材は、メンターを提供される可能性が高い。しかし、このような選別的なアプローチは、広範な機会を逸している。