他部門で活躍するスター人材の上手な引き抜き方
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サマリー:優秀な人材を他部門から引き抜く際、マネジャーは組織内の摩擦や人間関係の悪化というリスクに直面する。円滑な異動を実現するには、単なる戦力確保としてではなく、個人のキャリア開発や組織全体の利益という視点を持つことが不可欠だ。また、相手部門のマネジャーに敬意を払い、透明性の高いプロセスと十分な移行計画を提示する戦略的なアプローチが求められる。本稿では、社内政治を乗り越え、全員が納得する形でスター従業員を登用するための具体的な手法を紹介する。

いかにして他部門のスター従業員を引き抜くか

 自分の部門に空席のポジションがある。そこに誰を引っ張ってきたいか、あなたには明確なイメージがある。よその部門の従業員だが、いつも間違いない仕事を成し遂げる、あのスーパースターだ。だが、さっそく社内ヘッドハントに乗り出す前に、社内政治という難しい部分をクリアしなければならない。その部門のマネジャーとの人間関係を壊すことなく、スター従業員を引き抜きたいことをどのように伝えればよいか。反対されたら、どう対処するか。そして個人的なえこひいきだと思われずに、この異動を実現するにはどうすればよいのか。

専門家の意見

 社内の人材獲得は本来、難しくない。従業員にとっては、新しいスキルを身につけ、経験を広げられるよい機会だからだ。組織にとっても、さもなければ失うかもしれない人材を維持できるよい機会である。そして採用マネジャーのあなたにとっても、既知の人材で重要なポジションを埋められるのだから、よいことずくめだ。

 だが、トップクラスの人材を失う部門のマネジャーの考えは違う。「実際、人材のため込みは多く見られる」と、ペンシルバニア大学ウォートンスクール教授で、経営学を担当するマシュー・ビドウェルは言う。優秀な人材を失うマネジャーは、チームの能力低下を心配するだろうし、仲間の従業員たちは、なぜ自分が引き抜きの対象にならなかったのかと考えあぐねるかもしれない。

 ここで対応を誤ると、人材の横取りのように見なされるおそれがある。だからといって、こうした異動はありえないというわけではないと、コーネル大学産業・労使関係学部の准教授で、人的資源を研究するJRケラーは語る。そうではなく、「その状況に思慮深く対応し、全員が満足する解決策を見つける必要がある」。本稿では、その方法について、いくつかアイデアを紹介しよう。

全体的な状況に目を向ける

 あなたはすでにこの人事に納得している。だが、他の人たちを説得する必要があるかもしれない。そのような時は、次のような説明ができる。ビドウェルの研究によると、社内の別の部署から登用した人は、社外から採用した人たちよりも最初から優れた仕事をする。すでに組織の文化や人間や暗黙のルールを理解しているからだ。職階は同じで横滑りしてきた場合でも、将来的により昇進する傾向が高い。

 相手部門のマネジャーはスター従業員を失うことになるが、ケラーの研究では、長期的に「人材を育てる上司という評判」という、より価値の高いものを得られる。さらに、従業員が会社を辞める最大の理由は、キャリアアップの機会がないこと、という現実もある。「マネジャーが、部下の異動を認めなければ、いずれにしろその人物を失うだろう。社内の別のチームにではなく、ライバル企業にね」とケラーは言う。

従業員の関心を知る

 社内政治にいきなり踏み込む前に、従業員がそのポジションに本当に就きたいかどうか探ることをケラーは勧める。「本人に関心がないなら、波風を立てる必要はない」と彼は言う。それと同時に、約束はいっさいしないこと。ケラーは次のように勧める。「私のチームにこういうポジションがあって、君にぴったりかもしれない。君は今後どういう方向性を考えているのか、このポジションに関心があるか聞かせてほしい」

 これはセールストークではないと、ビドウェルは指摘する。自分が話すことと同じくらい、相手の言うことに耳を傾けることに注意を払おう。相手の優先課題や、希望する方向性を探ろう。そのうえで、このポジションが、相手の成長に合うかどうか考えよう。もし相手が同意するなら、相手の上司との話を進めよう。そうすれば従業員が気まずい思いをしなくて済む。

雰囲気を読む

 この状況と、相手部門のマネジャー(多くの場合あなたと同じ職階だ)との会話をどう切り抜けるかは、あなたの組織のオペレーションによって決まる。縄張り意識が強い企業文化もあれば、異動が織り込み済みの企業文化もあると、ビドウェルは指摘する。「あるポジションに2~3年いたら、次のことを考えるものだ」。このためビドウェルは、本人に声をかける前に、どのような人物が関係するかやチームの力学をよく考えることを勧める。

 ケラーは、相手の立場になって考えることを勧める。同僚が、あなたの最高の部下をほしいと思っている時、あなたならどのようにアプローチされたいか。あなたにとっては何が重要か。「リーダーたちはダブルスタンダードにいら立ちを示す」とケラーは言う。「相手が部下を手放してくれることを期待する一方で、自分ならけっして手放さない」。相手方が必要とすることに対処するために、移行計画を話し合う準備をしておこう。

戦略的になる

 引き抜きたい従業員のマネジャーにアプローチする時は、透明性を確保することをビドウェルは勧める。次のような言い方ができる。「私のチームのあるポジションに、この人物を就けたいと考えている。この人の目標や、成長したい方向性について、君はどう感じているか」。重要なのは、「相手に拒否権があると示唆するような話し方をしないこと」だとビドウェルは言う。

 また、なぜ特定の従業員が適任だと思うのか理由を説明したいだろうと、ケラーは言う。「この異動を、自分にとって最高にメリットになるだけでなく、組織にとっても最高のメリットがあると位置づけることだ」と彼は言う。「全員の認識を一致させること」。そのうえで、チームが抱えている課題についての懸念に耳を傾けよう。タイミングが重要だ。その点、柔軟性が役に立つ。従業員は現職と掛け持ちするかもしれないし、異動が遅れたりするかもしれない。

反対されることに備える 

 あなたは抵抗に遭うかもしれないと、ケラーは言う。「不機嫌になる人もいるかもしれない」。あまり強い態度に出る前に、自問しよう。この人材獲得は、あなたの人間関係の資本を危うくする価値があるか。この従業員は本当に状況を大きく動かしてくれるのか。相手部門のマネジャーが譲らなかったら、誰に話を上げるか。すべての有力候補者が、軋轢を恐れずに獲得しにいくほど価値があるわけではない。もし、この従業員にその価値があるなら、先に進むことを考えよう。

 許可ではなく、事実上、許しを求めるようなものだと、ビドウェルは言う。何をするのであれ、相手部門のマネジャーが持つ懸念を無視しないこと。「きちんと認めること。それを無視するのはまずいやり方だ」と、ビドウェルは言う。それからストレートに言おう。「この異動が実現したら、あなたの日常は大変になることはわかっている。私に手伝えることはないか」

徹底的に身辺調査をする

 おそらくあなたはゼロから始めるわけではないだろう。部門を超えたプロジェクトやタスクフォース、あるいは日常業務を通じて、すでにその従業員の仕事ぶりを目にしていて、それがその人物を獲得したい理由の一つになっている。「理想の世界では、突然こうした話が降って湧くことはない」とビドウェルは言う。「いつも人材をスカウトし、どのような人材がいて、どのようなことに魅力を感じるかを把握すべきだ」。それでも、その候補者と一緒に仕事をしたことがある人たちと話をして、その候補者がどの部分で最大の影響を与えられるのか、彼らの働き方やスキルを理解しておくことは価値がある。「情報源が多いほど、候補者の全体像がはっきり見えてくる」と彼はつけ加える。

後処理を徹底的にする

 ある異動が、同僚や他の候補者にどのように受け止められるかは、誰がその仕事を獲得するかと同じくらい重要になりうる。誰がほしいかすでに決まっているなら、偽の面接を実施すべきではないと、ケラーの調査は示している。「特定の人物にそのポジションを与えるつもりなら、シンプルにそうしたほうがよい。このポジションが誰にでも開かれているという誤った印象をつくる価値はない」と、ケラーは言う。

 選ばれなかった人たちに、あなたの決断の理由を説明する準備をしておこう。「異動が決まった人のライバルや、異動の検討対象にならなかった人たちは、理由を聞いてくると思ったほうがよい」。えこひいきではなかったことを慎重に説明しよう。ほとんどの人は、希望の仕事すべてを得られるわけではないことを理解していると、ケラーは言う。彼らは、どうすれば将来似たようなポジションを得られるか、そして次に何が起こるかをはっきり知りたいと感じている。

引き継ぎをスムーズにする

 移行期間を計画するとともに、獲得する従業員のそれまでの職務には明確な最終日を設定すること。「原則として、異動を明確にすべきだ」とビドウェルは言う。依然として問い合わせに応じたり、非公式に手伝ったりするのはよいが、新旧のポジションの仕事を同時にこなすべきではない。シニアレベルで、異なる部門や損益、または製品ラインを引き継ぐ場合は特にそうだと、ケラーは言う。相手部門のマネジャーに、どのような事態になるか理解させることも重要だ。スケジュールや責任、引き継ぎをあらためて確認して、予想外の事態が起きないようにしよう。「その人間関係を管理することが最も重要な部分だ」とケラーは語る。

正しく設定する

 あなたが新たに獲得した従業員にとっては残念なことに、横滑りは昇給を伴わないことが多い。ただ、研究によると、こうした異動は時間が経つと報われる傾向がある。それでも、もし新しいポジションが純粋にこれまでよりも大きいのであれば、少なくとも控えめな昇給を確保することを、ケラーは勧める。「彼らが成功の保証されていないポジションを引き受けたことを称えるべきだ」と彼は言う。「リスクを取る行為に報いるのだ」

 従業員はすでに興奮している可能性が高いが、そのままの状態を維持し、自分は成功できると自信を持っていてほしいとあなたは思うだろう。なぜ彼らと組織にとってこのポジションが重要かを明確にすること。彼らは、より幅広い責任と、新たな意思決定権、そしてこれまで以上に自分が目につくようになり、価値が高くなる経験を積むことになる。「彼らに何をさせようとしているのか、説得力のある説明をしよう」

覚えておくべき原則

やるべきこと

・従業員に関心があることを確認し、適性や成長について率直な話し合いをする。

・相手部門のマネジャーに共感と計画を持ってアプローチし、自分が同じ立場ならどのようにアプローチされたいかを考える。

・従業員の以前のポジションでの責任に明確な期限を設定し、相手部門のマネジャーと密に連携して円滑な異動を図る。

やるべきでないこと

・社内での異動の価値を過小評価すること。それは従業員にとっても、組織にとっても、その従業員のマネジャーにとってもプラスになる。

・その異動が、同僚や他の社内候補者にどのように受け止められるかを無視すること。失望が生じることに備えて、思慮深い回答を用意しておこう。

・対象となる従業員の関心さえあれば十分だと思い込むこと。そのポジションがなぜ重要なのかを説明し、それが提供するチャンスを明確にし、そのポジションが従来よりも純粋に大きいなら、正当な昇給を確保するよう努める。


"The Delicate Politics of Hiring Someone from Another Team," HBR.org, February 05, 2026.