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デザイン・アンプリフィケーションのプロセス
配管設備業界で豊富な経験を持つロブ・ビュートは、2003年にセーフティ・タブズというスタートアップ企業がつくった「ウォークイン・タブ(浴槽)」を初めて見た時、思わず笑い出した。ドア付きの浴槽なんて何かの冗談か、せいぜい普通の浴槽の縁をまたげない体の弱った高齢者向けの不格好な装置にすぎないと思った。
ビュートは完全に間違っていた。2025年のインタビューで語っている通り、彼はすぐに腑に落ちて、懐が潤う教訓を学ぶことになった。
友人がセーフティ・タブズの東海岸での販売権を獲得し、一緒にやらないかと誘われた時には、AARPマガジンの広告を見たという問い合わせが何千件も殺到していた。最初の顧客が涙ながらに電話をかけてきた後、ビュートもこの製品の信奉者になった。ある女性は、10年以上も浴槽に入っていなかったと語った。「彼女の名前はいまでも覚えている」とビュートは言う。2005年までにビュートと友人はセーフティ・タブズを買収した。
その後、ビュートは興味深いことに気づいた。需要のかなりの部分が、当初想定していた「移動に制約のある高齢者」という市場から来ているわけではなかったのだ。需要は爆発的に拡大し、さまざまな人のさまざまな欲求やニーズを取り込むようになった。肥満に悩む人にとっては人生を変える浴槽だった。アスリートは水治療法の効果に期待した。関節炎や腰痛、関節の不調に悩む人々からは、年齢を問わず浴槽の設置依頼が相次いだ。マッサージ効果のあるジェット水流、心地よい気泡、クロモセラピー(色光療法)といった機能は、健康志向の消費者や、リラックスや筋肉の回復を求める若い層を引きつけた。
「私たちは高齢者にだけ売っているのではないことに気がついた」とビュートは説明する。「はるかに大きな市場があったのだ」
今日では、ビュートが最初は冗談だと思った製品は、7億5000万ドル規模の市場を形成し、プレミアム仕様の浴槽は設置工事込みで2万ドルを超えることもある。ビュートがCEOを務めたセーフティ・タブズはアメリカンスタンダードに買収され、そのアメリカンスタンダードはLIXIL(現在のCEOは筆者の一人である瀬戸欣哉)に買収された。ビュートは現在、LIXILでアメリカ地域におけるアメリカンスタンダードおよびバスコのブランドを統括しており、ウォークイン浴槽を販売している。
これは、強力でありながら十分に活用されていない機会の事例である。アクセシビリティを必要とするユーザー向けに生まれたイノベーションは、拡張されることで普遍的な価値を解き放つことができるのだ。筆者らはこのプロセスを「デザイン・アンプリフィケーション」(増幅)と呼んでいる。視覚、聴覚、運動機能、認知などに制約を抱える人々のために設計された製品から出発して、主流市場向けの製品へと発展させるのだ。障害のある人を含むすべてのユーザーのニーズを満たすことを目指すユニバーサルデザイン(建築分野から生まれたデザイン哲学である)とは異なり、デザイン・アンプリフィケーションでは収益性と市場拡大が明確な目標となる。
多くの企業が主流の顧客向けに製品を開発することには理由がある。主流市場は最大であり、最も収益性の高い消費者層だからだ。一方、障害のある顧客は、機会が限られたニッチ層として片づけられてきた。
デザイン・アンプリフィケーションは、こうした従来の製品開発の論理を反転させる。最大かつ最も収益性の高いセグメントから始めるのではなく、制約のあるユーザー(たとえば障害のある人々)から出発し、外側へと広げていくことで、すべての人にとって大きな価値を創出する。
デザイン・アンプリフィケーションの意図的かつ戦略的な側面を明らかにするため、筆者らは150件を超えるデザインの普遍化に関する事例を分析し、さらにLIXILにおけるこのプロセスを複数の製品で詳細に研究した。対象にはアメリカンスタンダードのウォークイン浴槽、KINUAMI泡シャワー、ウエルライフのシステムキッチン、スマートドアのDOAC(ドアック)、INAXのビデ洗浄付き温水洗浄便座などが含まれる。同社のデザインおよび事業部門のリーダーにもインタビューを行った。
本稿では、この調査をもとに、企業がデザイン・アンプリフィケーションをどのように活用して、制約を市場での優位性に変えることができるかを論じていく。
デザイン・アンプリフィケーションの4つのレベル
障害がスティグマと結びついたり、慈善の対象として扱われたりすると、障害のある人向け製品の市場は限定的になる。しかし、障害をイノベーションの原動力と捉えるなら、その市場は広大になりうる。
障害のある人向けの製品を設計するデザイナーは、しばしば根本的な前提を問い直さざるをえない。たとえばウォークイン浴槽では、「防水とは、なぜ堅固な壁を固定することだと考えられてきたのか」という問いが生まれた。そして、壁をドアに変えることで極端なニーズを満たすと、他のニーズにも応えられるようになった。こうした発展は段階的に進み、核となる利点は保ったまま、それぞれの段階で市場を広げていった。
筆者らの研究が示すように、障害のある人向けの解決策は、外側へと広がる3つの同心円に価値を生み出しうる。すなわち、他の周縁的グループ、一時的もしくは状況的な制約を抱える人々、向上した体験を評価する主流の消費者である。周縁のためのデザインは、中心へと拡大しうる。
レベル1:周縁的ユーザー
デザイン・アンプリフィケーションは、独創的な解決策を必要とする制約を抱えたターゲット層の固有のニーズに応えることから始まる。







