「改善」の利点・効果

 このように、「改善」も「イノベーション」も、問題解決という意味では構造的に何も変わらないと考えられるのですが、企業競争力の維持・向上といった文脈において、「改善」はどのような利点・効果があるのでしょうか。この点については、様々な点が指摘されています。

 まず、「改善」は確かに現状に対する小さな改良かもしれませんが、長期間継続して実施すれば、結果的に大きな成果に結び付くと言われています。いわば、「塵も積もれば山」ということです。

 第2に、「イノベーション」と違って「改善」には、特定の天才あるいはエリートはむしろ必要なく、末端の社員まで全員が参加可能で、特定の問題点に対して社員全員で攻撃・解決できると言われています。「改善」が「3人寄れば文殊の知恵」「点ではなく面での問題解決」などと呼ばれる所以がここにあります。

 第3に、「改善」は1つ1つは小さな目立たない問題解決で、表立って大々的に実施する訳ではないので、組織内の抵抗勢力の目に触れることがなく、無意味な抵抗・批判にさらされずに、いわば「こっそり」と実施できるという利点も指摘されています。組織内の抵抗勢力から見れば、気付いた時にはすでに多くの改善が実施済みで、それなりの効果が出ていれば批判できないわけです。これは、かなり姑息な戦術に聞こえるかもしれませんが、実際に問題解決を実行する際には意外に重要な点です。

 第4に、同様に「改善」は1つ1つは小さな目立たない問題解決であるため、競合他社にも気付かれずに実施することが可能で、他社が事後的に模倣しようと思っても、どのような改善を積み重ねた結果が現在の姿なのか、外部からは見えにくいために、模倣困難性が高まり、結果として持続的競争優位に繋がるという議論があります。

 戦後、日本の製造業が試行錯誤を通じて生み出してきたJIT(ジャストインタイム)やTQC(トータル・クオリティー・ コントロール)などの生産システムも、海外の企業から見ると当初は得体の知れない模倣困難な生産システムであったと思われます。このように、「改善」は確かに目の前の小さな問題解決に過ぎないかもしれませんが、企業競争力の維持・向上にとって、様々な利点・効果があるのです。