コンフリクトなくして良いものは生まれない

――学歴も高く、自分にしかできない仕事をしたいと考え、リーダーシップのある人がゴロゴロした組織で、コンフリクト(摩擦)は起きないのですか。

 常に起こります(笑)。ただ、コンフリクトが起こるのはマッキンゼーとしてはポジティブな状態です。コンフリクトなくして、問題解決はできないからです。

 コンフリクトが起こらないのは、みんなが同じ意見だからです。3人いて3人が同じ意見であれば、1人しかいないのと同じことになってしまいます。3人いる意義は、3人が違う意見を持っているからで、違う意見をひとつにしようと思えば、コンフリクトが起こるのが自然なことです。もちろん、コンフリクトは精神的にも体力的にも消耗します。3回自分の意見が通らない程度は我慢できるでしょうが、10回言っても自分の意見が正しくないと言われたら辛いでしょう。でも、マッキンゼーの人はコンフリクトから価値が生まれると思っているので、それでも議論をやめないのです。

 そもそも、コンフリクトは喧嘩ではありません。チームの目標を達成するために、どの意見が最適かを話し合うために必然なものです。自分の意見より誰かの意見の方がチームの成果につながりそうだと思えれば、自分の意見を通すことにこだわる人はいません。

 大きな組織で長い間働いていると、コンフリクトを避けようとする力が働くようになりますが、マッキンゼーにはそれがありません。マッキンゼーがクライアント企業に、内部では出せない解を提示できるとすれば、それはマッキンゼーの方が有能な人材がいるからではありません。最良の方法を探すために、摩擦を避けないで議論を続けるからでしょう。

――どうしても優等生っぽく聞こえてしまうのですが、生身の人間が感情的にならず、ファクトとロジックで議論できる理由はどこにあるのでしょうか。

 コンフリクトを喧嘩や感情的な衝突と感じさせないテクニックは、コンサルタントとしての最低限のスキルです。「議論することが楽しい、価値がある」ではなく、「気分の悪い議論だ。もう話もしたくない」などと相手にストレスを感じさせたら、それはコミュニケーション上のスキル不足です。

 コンサルタントはサービス業ですから「俺の意見のほうがファクトとロジックからして正しい、以上」などという未熟なコミュニケーション能力では務まりません。摩擦があることすら気づかせないうちに、「確かにあの意見が正しい、いい解にたどり着けてよかった」と思わせるだけのコミュニケーションスキルは身につけないとダメでしょうね。

――では、石ころがゴツゴツぶつかり合うような議論をしているわけではないのですね。

 外部の方とお話しする際はすごく気を遣っていると思います。ただ、内部の人だけだとゴツゴツしていますよ。気を使っていると時間がかかるので、すごくキツい言葉で議論が交わされることもあります。議論の目的が明確だからこそできるのですが、中にはそういうのが耐えられないという人もいます。「こんなにキツい議論をしていたら神経が擦り減ってしまう、マッキンゼーは私には合わない」と言って辞めていく人もいますね。

 また、社内イベントのような些細なことでもトコトン議論している会社なので、マッキンゼーをやめた人同士で話すと、「まともな社会は楽でいい」なんて話にもなります(笑)。「そこまで詰めなくてもいいだろう?」と思えることまで、徹底的にこだわる人が多いので。