マッキンゼーにふさわしい資質とは?

――採用面接というごくわずかな時間で人を判断するのは難しいと思います。マッキンゼーにとって必要な人材を採用するために、どのようなところを見ているのですか。

 まず人が人を判断するということは、誤りが起こるものという前提を忘れてはいけません。誰一人「完璧な採用判断ができる」ような人は存在しません。

 その上でコンサルティングという仕事は、経営者に対するサービス業なので、まず企業の経営、マネジメント分野に関心があるか、接客業やサービス業に適性があるかということは見ています。

 よく、難問を解くことに興味がある方がマッキンゼーを受けに来られるのですが、難問を解くこととサービス業は適性が異なりますので、そういう方は難問を解くという適性を活かせる会社を選択されたほうがハッピーだと思います。

 もうひとつは、リーダーとしてのポテンシャルです。自分が人と違うと見られることを恐れない、周囲の意見に流されず自分の意見を決めることができる、間違っているかもしれないけれど自分の意見を周囲に伝えられる、といった点です。

 さらに、コミュニケーション能力も大事です。サービス業ですから、相手の意見を聞いて自分の意見を言い、話し合うことが不得意な人に向く仕事ではありません。前回、コンサルタントは部外者扱いされ、マイナスの状況からクライアント企業の中に入って行かなければならないと言いました。そうした逆風のなかで相手を説得するコミュニケーション能力が必要なのに、採用したいと思って会っている私を説得できないようでは話になりません。

 同じ意味で、組織やチームで働くことが向かない人も難しいでしょう。面接で過去の様々な体験について親身に聞いていくと、皆さんご自分で語ってくださいます。『採用基準』に書いたように、リーダーシップへの誤解もあるのでしょうが、「自分はリーダーというより参謀役です」と言われる方もあります。本当にそうであれば、マッキンゼーのようなところで働くのはつらいだろうと思います。

――短い面接の時間でそれだけのものが見抜けるのでしょうか。

 最初にお話ししたように、面接で完璧な評価ができるということは、ありえません。それでも、話しているときに相手がどういう気持ちなのかということをまったく考えず、自分の言いたいことだけを話す人は、一般論としてサービス業には向いていないと思います。そういう人に対しては、面接の最中に「私はあなたの話に飽きているんですけど?」というサインを表情や仕草で送ることもあります。でも、こちらの仕草にまったく頓着せず、延々と話を続けるような人は厳しいですね。

――要するに、察する気持ちが大切なのですね。

 相手の気持ちを注意深く察することも大事だし、それでも言わなければならないことは言うという姿勢も大事です。相手にコンフリクトと思わせずに問題解決をするテクニックもあれば、敢えてコンフリクトの存在を明確にして議論を喚起する方法もあり、その辺は手法の問題です。

 しかし、相手が困っているとか、これを言ったらコンフリクトが起こるだろうということを、まったく気づかないのは問題です。さらに言えば、察していても空気を読んで自分を抑えすぎる人も向かないでしょう。コンフリクトを避けたがる人は、ああいう組織にいることが苦痛になってしまうと思います。