バーガーキングが実践する、弱みを強みに変える逆転のマーケティング
PHOTOGRAPHER AIKO SUZUKI
サマリー:ハンバーガーチェーンのバーガーキングが、日本での存在感を高めている。1990年代、2000年代に日本での事業展開に苦戦した時期もありながら、運営元がビーケージャパンホールディングス(現ビーケー・ジャパン)に変わると攻勢に転じ、現在では350店舗以上を展開する(2026年4月末時点)。その躍進を担ったのが、2019年にマーケティングディレクターとして入社し、2023年1月に社長に就任した野村一裕氏だ。競争の激しい業界で、持続的な成長を遂げるために、野村氏はどのような戦略を立て、実行してきたのか。バーガーキングを飛躍へと導いた、ゼロからのブランド構築とマーケティング戦略について話を聞いた。(聞き手:村田康明・DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部副編集長、撮影:鈴木愛子)※本記事は、ダイヤモンド社が主催したウェブセミナー「経営の未来~不確実な時代に求められる成長ドライバー」(2025年12月9日)の特別講演の採録です。

資金も、オフィスも、店舗も十分にない
ゼロから始めたブランド構築

編集部(以下色文字):バーガーキングのここ数年における成長は目覚ましく、5年で店舗数が約4倍、2025年10月には300店舗を突破しました(2026年5月末時点で350店舗を突破)。野村さんは『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2025年8月号のインタビュー「バーガーキングは賛否を巻き起こすマーケティングをどのように実行してきたのか」の中で、入社した頃はとにかくお金がなく、厳しい状況だったと話されています。当時のバーガーキングは、どのような状況だったのか、あらためて教えていただけますか。

ビーケー・ジャパン 野村一裕社長

野村(以下略):私が入社した2019年5月は、それまでロッテ系列で運営されていたバーガーキングの約100店舗のうち、不採算店舗である23店舗が一斉閉店となり、残りの店舗がビーケージャパンホールディングスに統合されたタイミングでした。売上げに換算すれば、数十億円のマイナスからのスタートです。そうした中での私のミッションは、いまあるブランドをどう多くの人に届けていくかというリブランディング戦略を立て、実行することでした。

 当時は自社オフィスもなく、ウィーワークの一室を借り、テック系スタートアップに囲まれて仕事をしていました。家賃も高く、従業員全員分の席数も取れず、誰が同じ会社の人かもほぼわかりません。会議室を借りるにもお金がかかりますから、その辺で立ちながらミーティングをしてもらっていたほどです。300店舗を優に超えた、いまの状況を夢見る暇もない状態でした。そうした中で、まずは「いまある店舗をどう維持して、全店黒字化していくか」を考えていました。

 スタートアップのような状況だということは、入社前からご存じでしたか。

 正直、ここまでだとは思いませんでした。バーガーキングは世界120カ国以上でビジネスを展開している世界的企業です。私自身、米国にいた子どもの頃によく食べていましたから、この状況には驚きました。

 ヒト、モノ、カネがまったくない当時のバーガーキングで、どのような戦略を描かれたのでしょうか。

 最近はおかげさまで、多くの方が「超赤字会社から超黒字会社になった」というビジネスのサクセスストーリーに目を向けてくださっています。そのおかげで基本的な事実が忘れられているかもしれませんが、私たちのバーガーはとてもおいしいのです。そのおいしさをつくり出しているのがパティの「直火焼き」という調理法です。手間も時間もかかりますから、ハンバーガー業界のチェーン店では唯一無二の調理法といえます。

 それを中心にした戦略をどのように構築できるかを考え始めたら、実は簡単なことでした。他社との違いを明確にし、とてもおいしいと思えるものを提供して、その回転率を上げる方法を考えるだけだからです。どのようなメッセージをお客様に伝えるか、Reason to Believe(RTB)をどう打ち出していくかを考えて、戦略を立て始めました。

「教室の隅にいるユニークな子」で
チャレンジャーとしての地位を目指す

「直火焼き」を武器にしていくと決めた一方で、リソースも十分ではない状況で、何から手をつけたのですか。

 まず、この業界における他社のポジションを確認しました。ファストフード業界では、マクドナルドが「マーケットリーダー」として、圧倒的な地位に君臨しています。マクドナルドを脅かす存在である「チャレンジャー」として、モスバーガーとケンタッキーフライドチキン(KFC)。その下の「フォロワー」には、全国で100店舗程度のお店があります。たとえば、ウェンディーズやフレッシュネスバーガーです。一番下の段には、100店舗以下しか展開していないような、ニッチなブランドがあります。それを踏まえ、私たちはどこを目指すのかを考えました。

 最初は、ニッチにポジションを置いていました。100店舗もありませんでしたから、ニッチにせざるをえなかった部分もあります。そうした中で、モスバーガーやKFCを分析していくと、実はマクドナルドとは異なる戦略を取っており、ぶつかっていないとわかりました。KFCはチキンを中心に商品を展開し、モスバーガーは日本のよい食材をお客様に提供することに力を入れるなど、三者三様で生き延びています。その棲み分けができている中に、「殴り込みをかけるバーガーキング」という状況をつくりたかったのです。

 そして、私たちの強みである「直火焼き」を中心に置いた戦略を描き、もっと高いところで勝負しようと、「チャレンジャー」のポジションを目指すと決めました。そのために、普通のブランドがやらないようなアンチテーゼや、少しは批判が出るようなことをあえて仕掛けていきました。

 ブランディングの教科書などでは、ブランドを人間のように扱って人格を定めましょうと言われますが、野村さんもバーガーキングというキャラクターの人格を定めたそうですね。