確かに、日本住宅公団は、法人税を支払う組織ではない。よって、法人税を計算する際に利用する税法上の耐用年数に、したがわなければならないわけではない。賃貸住宅が実際にどれくらい使えるのかを見込んで、その期間で減価償却するのが本則であろう。
問題は、原価家賃方式という家賃決定方式に引きずられて、耐用年数を長めに設定したいというインセンティブがあったことである。会計数値の利用方法が、会計数値の計算方法を歪めるという現象、いわゆる逆基準性の問題が、ここでもあったといってよい。結果として、合理的な耐用年数として採用できるギリギリいっぱいの70年が採択され、現在に至っている。
一方、家賃の決定方式は、後に変更される。平成11年に都市整備基盤公団が設立されたときから、公団住宅の家賃決定方式は、原価家賃方式から、賃貸不動産マーケットで決定される家賃を基準とした市場家賃方式へと移行する。したがって、原理的には、家賃を低く抑えるために、減価償却の計算期間を70年とする必要はなくなったはずである。しかし、都市整備基盤公団へ改組されてからも、平成16年にURへ改組されたときも、減価償却期間は短縮されなかった。
たとえば、かりに合計1000億円分の建物を今年建設したとしよう。これを70年で償却すれば、1000億円÷70年で、年間14億円程度の減価償却費が発生する。47年経過すると、それまでの減価償却費の合計(減価償却累計額)は、671億円となり、帳簿価額(未償却残高)は、1000億円-671億円で329億円になる。実際に47年で建て替えをしているとすれば、この329億円は、除却損として損失となる。70年で減価償却しているURの場合、実際の耐用年数がこれより短ければ、有形固定資産の帳簿価額が高め高めに出ていることになる。現状では、建設後約50年で建て替えているようである。
国家レベルの粉飾決算!?
しかし、このような高めの帳簿価額がいつも維持できるわけではない。企業会計基準と同じ基準を採用しているURは、一定の条件が充たされると固定資産の減損損失を計上しなければならないからである。
現在、URが採用している会計基準にしたがうと、団地単位で2期連続営業赤字が出るなど、減損の兆候があった場合、将来のキャッシュフローを見積もり、その合計額が帳簿価額を下まわるときには、帳簿価額を将来キャッシュフローの現在価値まで切り下げなければならない。