しかし、昭和40年代以降に建てられた物件は、間取りも現代的であって、新規に建て直す必要はないらしい。ファミリー居住用にふさわしい住宅が月額5万円未満で借りられるとあれば、これはかなり魅力的である。現状の機能を維持し、現状の価格であれば、経済的にもさらに30年の使用に耐えうるのかもしれない。

 さらに、昭和50年代、昭和60年代、平成1桁と建設年代が後になればなるほど、間取りや設備も現代的になり、耐用年数も長くなる。直観的には70年の耐用年数は予想より長い気がするが、明確な根拠なく不合理といえるほどには長くないかもしれない。

 賃貸用不動産が実際に70年使用可能で、URに資金ショートが起きないとすれば、資産評価も今のままで、数十年そっとしておけば、自動的に問題が解決するという考え方もあろう。財務諸表が適正であることを前提にするかぎり、この考え方にも一定の合理性がある。

実質的な国民負担を減らす道

 しかし、市場原理を導入することなく、経営上の裁量の余地を制限しておけば、実質的な国民負担はかえって大きくなってしまう。現在、URの活動に大きな制約があるため、利益を獲得する機会をみすみす見逃してしまっているのが実情である。

 たとえば、都市再生事業では、価格下落リスクを取って不動産を取得し、権利調整をして、区画整理し、道路まで作った上で、民間に売却している。そして、民間企業がそこに分譲マンションを作って利益を上げている。既存賃貸住宅の建て替えで、新しく処分できる土地ができた場合でも、高い賃料で貸せる土地をわざわざ低い賃料で、社会的意義のある事業主体に貸し出していたりする。こうした制約を外して、民間並みの条件で利益獲得に邁進すれば、潜在的欠損金を大きく減らすことが可能であろう。筆者の個人的な意見としては、URの潜在能力を限度いっぱいまで発揮してもらい、できるだけ大きな利益を獲得してもらうことこそ、実質的な国民負担を減らす道であると考える。

 市場原理を導入するためには、徹底的な資産査定をし、スタートラインを確定することが望ましい。その資産査定結果にもとづいて開始貸借対照表を作り、民間並みの裁量の余地を持つ代わりに民間並みの金利を負担してもらって財務規律を効かせ、民間並みの基準でパフォーマンスを評価して、利益稼得に邁進するのが、実質的な国民負担を減らす道である。