AIが組織にもたらす「知識の劣化」にリーダーはどう対応すべきか
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サマリー:生成AIの普及は業務を効率化する一方で、組織に「知識の劣化」(スロップ化)という隠れた危険をもたらす。AIによる低品質な情報が事業プロセス全体に蔓延すると、人間は確認作業に追われ、最終的には業務基盤への信頼そのものが失われてしまう。この事態にリーダーはどう立ち向かうべきか。本稿では、AIによる知識の劣化から組織を守り、真の生産性向上を実現するための4つのステップを論じる。

AI活用で起こる知識の劣化

 AIは驚くべき能力を多く備えている。音声プロンプトからメールの返信を作成したり、複雑なビジネス上の意思決定を下したり、さらには複雑な数学の問題すら解ける。だが、生成AIの恩恵には隠れた危険が伴う。組織における知識の正確性や質の劣化だ。

 AIを使って一見よくできているが実のところクオリティの低い成果物が生み出されることで、他人の時間を無駄にし、同僚の信頼を損なうことになるワークスロップ(workslop)が組織レベルで現れるのが「知識の劣化」である。このスロップ化が大がかりに、そして事業プロセス全体で連続的に発生すると、そのプロセスそのもの(と出力)の質も劣化する。それが組織内部だけでなく、組織が依存する外部の情報フローでも起こり始める。間違いが増幅し、積み上がっていく。情報に対する信頼が損なわれる。確認に要する時間が増えたり、コストを生じさせたり、危険なミスを犯したりするリスクが生じる。そして最終的には、業務の基盤となるプロセスへの信頼が失われるようになる。

 するとリーダーは、確認、検証、エントロピーという3つの課題を突きつけられる。それに対処するためには、組織は生成AIの活用方法を調べるとともに、顧客やサプライヤー、パートナーとの関係を精査して、知識の劣化が生じていないことを確認しなければならない。もし、劣化が生じているなら、介入する必要がある。理想は、ビジネスパートナーと協力して、社内外の情報の質が確実に把握されており、それによって十分な情報に基づいた意思決定が行えるようにすることだ。

 本稿では、リーダーが知っておくべきことと、組織を知識の劣化から守る方法を紹介しよう。

プロセスのスロップ化

 知識の劣化は、生成AIによる出力のクオリティ管理を従業員に徹底していない時に生じる。従業員がコンテンツを作成したり、誤りや不完全な文章をチェックしたりする責任をおろそかにしたり、AIに任せてしまったりすると、一連のプロセスに関わる人たちが、クオリティ確保の努力を放棄するようになる。「どうせAIは私が提出するコンテンツを読むのだから、最初からAIに任せればよい」と思うのだ。すると、プロセスの誠実性と信頼が崩壊する。

 たとえば、空席のポジションを埋めるプロセスを考えてみよう。現在、こうした人事は、すべての段階にAIが組み込まれていることもある。大規模言語モデル(LLM)はコンテンツ、とりわけ職務記述書や、そのキーワードに最適化された履歴書やカバーレターなど、比較的標準的なコンテンツの作成に長けている。AIは、大量の候補者をふるいにかけ、ランクづけすることもできる(やはりキーワード分析を使う)。ひとたび候補者を絞り込んだら、AIはチャットボット面接を行い、候補者の回答の質を評価する。人事部長たちによると、候補者が面接中にこっそりLLMを使って、リアルタイムで回答を生成させていることもある。これは、質問の後わずかに間があり、完璧だが味気ない回答がなされるといったことでしか見抜けない。さらに、候補者は応募書類がAIによって評価されていることを知っているため、分析能力が高いように自分の経歴を強調する傾向がある。

 各段階をAIが拡張したことの全体的な影響として、求職者の間でも、採用担当者の間でも、採用プロセスに対する信頼は過去最低水準に低下している最近の調査では、AIのおかげで求人件数は増えたが、その職務記述書の内容はありきたりで、職務に関する有益な情報が少なく、マッチング成立可能性も低くなっていることがわかった。いったい、私たちは何を評価しているのか。ある候補者が空席のポジションにどのくらい向いているのか、それとも会社がそのポジションをいかに緻密に定義しているのか、という点か。あるいは、プロセスの各段階でAIがどのくらいうまく使われているのか、ということだろうか。

 研究の分野でも、同じような事態が進行している。「AIサイエンティスト」が研究の設計から実験の実施、そして論文の執筆までを一手に引き受け、論文を生成するようになったのだ。これにより、最大のボトルネック(人間の科学者)が取り除かれて、研究の生産性は飛躍的に向上したともいえる。もう少し控えめなAIの介入もある。学術誌や学会に提出されるAI生成コンテンツが急増しているが、その中には、架空の執筆者や共同執筆者が記載されていたり、実在の人物が誤って執筆者としてクレジットされる場合もある。本稿筆者の一人は、実際、自分が関与していない論文についてそのように記載されたことがある。

 AIを使った研究論文の査読レポートも作成されている。2026年4月、経営学研究のトップ学術誌である『Organization Science』は、同誌に寄せられる論文にAIが与える影響に関する調査結果を発表した。「2022年後半にチャットGPTが公開されて以来、本誌への寄稿数は42%増加したが、文章の質は低下している」という。「AIツールの現状は、研究論文を発表し続けなければ、研究者として生き残れないという、既存のインセンティブによって増幅され、研究の質よりも量へとバランスを傾けているようだ」。他の分野でも同様の懸念すべき傾向が見られる。

 ヘルスケアも、AIの利用が急拡大している分野だ。たとえば、米国ではプライマリケア(初期診療)医の40%が、「臨床決定および診療支援」AIツールを使用している。医師たちは、診察時の患者との会話を記録したり、保険請求のための治療コードを分類したりするために、AIツールを使用している。その情報の一部は、事前承認を得る過程で保険会社に共有される。すると保険会社は、やはりAIを使ってその承認を決定する。このプロセスのいずれかの段階に過誤があったり、不適切だったりすれば、患者に問題を引き起こす可能性がある(本稿筆者の一人が最近経験した)ほか、AIツールへの過度な依存が拡大するにつれて、臨床医のスキルが低下するおそれもある。