上司をマネジメントする
サマリー:『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2026年9月号の特集は「上司をマネジメントする」です。上司は選べない。運も不運もある――。そんな中、持続的に成果を挙げる人は、上司の期待や関心、意思決定の文脈を的確に読み取りつつ、みずからが成し遂げたい目的を実現するために、上司の支援をうまく引き出す術に長けているものです。そこで2026年9月号の特集では、上司の信頼を獲得し、より大きな裁量と機会を手にするための行動原則に迫ります。

誰を見て仕事をするか

 近頃は「上司ガチャ」などという言葉もあるようですが、一つ自慢をさせていただくならば、私はこれまでのキャリアで本当に上司運に恵まれてきました。まだ駆け出しだった頃にお世話になった上司には、「誰を見て仕事をするかをよく考えること。それが成果物のクオリティを決める」と教えてもらいました。あれから長い歳月が経ちましたが、いまでも折に触れてこの言葉を思い出すのは、それが仕事の本質であるからに違いありません。

 人は時に、周囲からの高評価や目先の保身を求めたくなるものです。けれど中心に据えるべきは、自分は仕事を通して、社会、顧客、あるいは組織のためにどういう貢献ができるだろうかという問いです。その目的を具現化するために、上司といかに信頼関係を築き、協力し合うか。これこそが、今号の特集「上司をマネジメントする」を通して考えたいアジェンダであり、不確実性の高い今日のビジネス環境下で、部下から上司に働きかけることのできる「共創型マネジメント」の一つのあり方だと考えます。

 特集1本目「上司と『うまく付き合う』必要はない」は、日本製鉄会長兼CEOの橋本英二氏へのインタビューです。現在は、粗鋼生産量で世界トップクラスの組織の頂点に立つボスというお立場ですが、かつてご自身が部下の立場だった頃には、上司とうまく付き合うという発想はまったくなかったと振り返り、少なくとも2段階上のクラスの目線で物事を捉えることが大切だと語ります。

 特集2本目「上司に理想を語る抵抗者ではなく、みずから実現する改革者であれ」は、人事のプロとして複数の企業で変革を推進してきた有沢正人氏に、ボスたちの信任をどのように勝ち取り、成果を挙げてきたのかを聞きました。上司に提案する際の主語は「私」ではなく「組織」であるべきというアドバイスをはじめ、メモしておきたい言葉の数々は必読です。

 続く特集3本目「不安定なリーダーにどう対応すればよいか」では、自分のリーダーが対人関係に不安定さを抱える人物だった時、その特性を踏まえながらも効果的な協働関係を築くための3段階のフレームワークを提示します。

 特集の最後を締めくくるのは、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)名誉教授のジョン J. ガバロとジョン P. コッターによる名論文「上司をマネジメントする」を再掲してお届けします。『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)初掲載は1980年に遡りますが、「上司が部下をマネジメントするのと同様に、部下も上司との関係を築く責任がある」と説くその主張は、色褪せるどころかいまなお私たちに重要な気づきを与え続けてくれています。

 ボスマネジメントとは、上司への追従や迎合の技術ではありません。周囲の支援をいかに引き出し、より高次の大義を実現するか。今号のDHBRが、働くことの意味を再考するきっかけになれば幸いです。

(編集長 常盤亜由子)