最も重要なポイント

 以上、ここまで「イノベーションが起こりやすい組織」を作るための6つの方策を述べさせて頂いたが、最後に最も重要なポイントを指摘したい。それは、これら6つの方策を、個別バラバラの取り組みとして実施するのではなく、互いに整合した大きなメカニズムとして意識する、という点だ。

 例えば、先述した3M社の15%ルールと同様な取り組みを導入している日本企業もまま見られるが、その様な取り組みがイノベーションの実現に繋がった、と言う話は寡聞にして知らない。なぜなのだろうか?メカニズムとして機能していないからである。

 15%ルールは「組織における有効な遊び」の要素だが、その遊びによって生み出されたアイデアが、実際に経済的成果を生み出すイノベーションに繋がるためには、それが組織内で見出され、資金を注がれ、様々な社内外の圧力から保護されて、市場化されなければならない。

 そのためには、そのアイデアが、上層部に上申され(=風通しのよい文化が必要)、多面的な側面から価値判断され(=多様性が必要)、粘り強く社内で保護され(=高いネットワーク密度が必要)ることが必要なのだが、多くの企業ではこういった組織の「土壌」部分に手を着けずに、短兵急にわかりやすいルールや制度の導入に走ってしまうのである。

 イノベーションは意図的に生み出そうと思って生み出せるものではない。我々に出来ることは、イノベーションが生み出されやすい土壌を整え、種をまき、その種に光と風と水を適切に注ぎ、嵐や日照りから守るということだけである。イノベーションというのはビジネスの世界に咲く「大輪の花」なのである。そしてその花を咲かせるために必要なのは、わかりやすい一つの打ち手ではなく、土壌を始めとした様々な組織・プロセス・人材の要件を整備するという包括的な取り組みなのである。