このパーセンタイル算出の母集団となっているのは、ヘイグループが全世界で行っている経営幹部・管理職なので、36パーセンタイルというスコアはイノベーティブな企業はもちろん、グローバルの平均的水準と比較しても際立って低いものと言える。「イノベーションの促進」となると、即座に開発人材の創造性や商品開発プロセスに目が行きがちだが、我々の分析からは、そういった現場力の底上げや業務改善よりも、会社の舵を取る立場にあるリーダーシップにこそ大きな課題がある、ということが明らかになっているのだ。
2.人材の多様性
イノベーションを起こす組織に共通に見られる特徴の二つ目は、「人材の多様性」である。しかし、なぜ人材の多様性が、イノベーションの促進にポジティブな影響を与えるのだろうか?一言で言えば、多様性が新しいアイデアの組み合わせを生み出すからだ。
米国の科学史家トーマス・クーンは歴史的名著『科学革命の構造』(みすず書房)において「本質的な発見によって新しいパラダイムへの転換を成し遂げる人間のほとんどが、年齢が非常に若いか、或いはその分野に入って日が浅いかのどちらかである」と指摘しているが、確かに20世紀以降、科学界あるいは産業界を揺るがした様な大発見・大発明は「ダブルメジャーの成果」であることが多い。
ダーウィンの進化論と恐竜絶滅の隕石説
例えばチャールズ・ダーウィンがそうだ。ダーウィンは進化論における、いわゆる自然選択説を提唱したことから、一般には生物学者として認識されているが、もともとの専門は地質学である。ダーウィンは地質学者としてビークル号に乗り込んでガラパゴス諸島を訪れ、そこで自然選択説の最初のインスピレーションを得ることになる。実際のところ、ビークル号には別に生物学専門の科学者も乗り込んでいたのだが、この生物学者は集めた標本をそれまでの生物分類に沿って整理することに熱中していて、ダーウィンが抱いた様な仮説を持つに至らなかった。なぜか?それはまさに「彼が専門の生物学者でなかったから」だ。