こういった事例は枚挙に暇がない。例えば恐竜絶滅の理由に関する仮説もそうだ。20世紀の科学界において、なぜ恐竜は絶滅したのかということは長い間大きな謎だった。理由として、恐竜が花粉症になったという説から新しく出現した哺乳類との競争に負けたという説、ただ単に体が巨大になりすぎたという説まで、いくつもの仮説・珍説が大真面目に議論された。そんな中、白亜紀の終わりに直径10キロの隕石が地球に衝突して、これが恐竜絶滅の原因になったのではないかという仮説を出したのが、ノーベル物理学賞受賞者のルイ・アルバレスであった。
この仮説は、結局、現在において恐竜の絶滅を説明するためのもっとも有力な仮説と考えられている。もちろん、多くの古生物学者は、長い地球の歴史の中で、多くの小惑星や隕石が地球に衝突していたことを知っていた。ではなぜ、彼らは恐竜絶滅の原因として隕石説を提案しなかったのだろうか?一言で言えば思いつかなかった、ということだ。彼らは「恐竜絶滅」という知識と「小隕石の衝突」という二つの知識を「組み合わせて考えることが出来なかったのだ。
一方、アルバレスは地質学者の息子とともに、白亜紀から第三紀の境界の粘土層に含まれるイリジウムの濃度が際立って高いことを発見し、この時期に巨大な隕石が地球に落ちた公算が強いこと、その時期が恐竜絶滅の時期と重なっていることから、これが恐竜絶滅の主要因ではないか、という仮説を持つに至っている。ダーウィンの時と同様、ここでも「天文学」と「古生物学」と「地質学」が出会うことで重大な仮説が提示されている、ということに注意して欲しい。
創造とは結び付けること
かように、科学におけるイノベーティブなアイデアの多くは、領域横断的なところで生み出されているのである。これはビジネスにおけるイノベーションも同様と言える。
イノベーションのグルであるスティーブ・ジョブズは、「創造とは結び付けることだ」と言っているし、オープンイノベーションの実践で先駆的な実績を挙げているP&Gでは、イノベーションの促進に当たって「コネクト&ディベロップ」がスローガンとして掲げている。同社のイノベーション兼技術担当副社長だったラリー・ヒューストンは「独創性とは、人と人とのつながりをつくるプロセスにほかならない」とことあるごとに口にしていた。