この「目上の人に対して反論したり主張したりすることに対する心理的な抵抗感」の強さを、オランダの心理学者ホフステードは権力較差指標=PDI=Power Distance Indexと名付け、それを実際に調査した。その調査の結果(図表3)を国別に見てみると日本のスコアは54で四位になっている。日本より上位にある国(地域)をご覧いただければわかる通り、全般的に儒教文化が根付いているところで、高いスコアになる傾向が明らかだ。例えば韓国で地下鉄に乗られたことのある方は、若い人がどんどん年配の人に席を譲るのをご覧になられたことがあるだろうが、これも権力較差指標の高い国ならではのことと言えるかも知れない。

 

(図表3)

 2012年7月にINSEADが発表した国別イノベーション指数のTOP5は上から順にスイス、スウェーデン、シンガポール、フィンランド、イギリスとなっているが、このランキングをPDIのスコアと比較してみると筆者の言わんとしていることもおわかりだろう。

 このスコアは、日本人は相対的には、目上の人間に対して反論したり意見したりするといった行動に対して、抵抗感を感じる度合いが強い、ということを示している。

 一方で、前節で紹介した科学史家のトーマス・クーンの言葉「本質的な発見によって新しいパラダイムへの転換を成し遂げる人間のほとんどが、年齢が非常に若いか、或いはその分野に入って日が浅いかのどちらかである」という言葉を紹介するまでもなく、多くのイノベーションが、いわゆる組織内における「若手」を中心に主導されてきたこともわかっている。