また今やファミリーカーの代名詞になりつつあるミニバンも、もともとはクライスラーで何度も否決された商品アイデアだったが、技術者が転職したことで初めてGOサインが出て開発に至っている。イノベーションの可能性を見極めるのは非常に難しい。だからこそ、複眼的・多面的な検証が欠かせないのだ。
5.失敗に寛容な文化
「アメ」と「ムチ」のどちらが有効か

創造性をより高めるためには「アメ」と「ムチ」のどちらが有効なのだろうか?この問題を考えるために、1950年代に心理学者のカール・ドンカーが提示した「ろうそく問題」を取り上げてみたい。まず図2を見て欲しい。
「ろうそく問題」とは、テーブルの上にろうそくがたれないように、ろうそくを壁に着ける方法を考えてほしい、というものだ。多くの人は7~9分程度で、図3のアイデアに思い至ることになる。

つまり、画鋲を入れているトレーを「画鋲入れ」から「ろうそくの土台」へと転用するという着想を得ないと解けないのだが、非常に興味深いことに、この問題を被験者に与える際、「早く解けた人には報酬を与える」と約束すると、アイデアを得るまでにかかる時間は際立って「長くなる」ことがわかっている。1990年代にプリンストン大学で行われた実験では、平均で3~4分ほど長くかかったという結果が出ているのである。