6.組織における「遊び」の存在

 効率化は日本のお家芸だが、効率化が極端に進んだ組織ではイノベーションは起こりにくい。効率化というのは、とりあえず今ある機会に対して費用対効果を極大化させようという考え方だが、イノベーションの核となるようなアイデアの組み合わせは、目の前の収益に対して効率を最大化させようとする行動の中からは誘導されないからだ。

 この点については「アリ」のコロニーに関する研究が面白い示唆を与えてくれる。アリのコロニーでは、働きアリの一匹が巣の外でエサを見つけると、フェロモンを出しながら巣まで帰って仲間の助けを呼び、他のアリは地面につけられたフェロモンをトレースすることでエサまでのルートを知り、巣まで手分けしてエサを運搬する、ということが行われている。したがって、巣のメンバーにとって、エサの獲得の効率を最大化させる鍵は、フェロモンのトレースをどれくらい正確に行えるかという点にかかってくるように思われるわけだが、これが実はそうではないのである。

 広島大学の西森拓博士の研究グループは、このフェロモンを追尾する能力の正確さと、一定の時間内にコロニーに持ち帰られるエサ量の関係を、コンピューターシミュレーションを使って分析するという興味深い実験を行った。

 六角形を多数つないだ平面空間を、エサを見つけると仲間をフェロモンで動員するアリAが移動していると設定し、Aを追尾する他の働きアリには、Aのフェロモンを100%間違いなく追尾出来るマジメアリと、一定の確率で左右どちらかのコマに間違えて進んでしまうフザケアリをある割合で混ぜ、フザケアリの混合率の違いによって、エサの持ち帰り効率がどう変化するかを調べたのである。するとどうしたことか、完全にAを追尾するマジメアリだけのコロニーよりも、間違えたり寄り道したりするフザケアリがある程度存在する場合の方が、エサの持ち帰り効率は中長期的には高まることがわかったのである。

 これはどういうことなのだろうか?つまり、アリAが最初に着けたフェロモンのルートが、必ずしも最短ルートでなかった場合、フザケアリが適度(?)に寄り道したり道を間違えたりすることで、思わぬ形で最短ルートが発見されて、他のアリもその最短ルートを使うようになり、結果的に「短期的な非効率」が「中長期的な高効率」につながる、ということなのだ。

 これを組織論の枠組みに考えてみると、イノベーションを数十年に渡って起こし続けている企業の多くが「規律」と「遊び」の絶妙なバランスの中を泳いでいることの理由が透けて見えてくる。