企業が発展途上国の低所得者層と何らかの関わりを持つ営利ビジネスに取り組む場合、その理由は10社あれば10通りだろう。多くの企業にとっては、あくまで市場拡張と利益実現が本音の目的であり、社会性(株主以外の利害関係者への裨益)の追求は利益実現の手段の一つと位置付けられるだろう。つまり前回説明したように、この場合の社会性はあくまで必要に応じて選択的に採られる手段なので、その企業が望む期間に望む水準の利益をもたらさないと判断された社会性は、その企業によっては追求されないだろう。

 企業が社会性を積極的に追求するか否かの決定要因には、大きく二つあると考えられる。一つは上記のように社会性追求が利益実現に結びつくことが見込まれるか否かであり、いま一つは企業がその戦略的意図として社会性を追求すると、意思決定しているかどうかである。その意思決定をしている場合、戦略的意図に基づく社会性追求はさらに二種類に分かれる。1)社会性と経済性の同時実現(例えばインドとアフリカでソーラーランタンの販売を行うディーライトデザイン社)をゴールとして目指すケースと、2)社会性の追求を前提条件とした利益実現のみを目指すケース(例えば味の素株式会社のガーナプロジェクト)である。1)と2)は社会性追求が担保される点では共通している(注)。

 上記の理由は、いずれも内発的な動機であり、経営陣(もしくは当該事業責任者)の信念や自社のミッションと連動した戦略的意図である。だがもう一つの理由として、企業を取り巻く外的環境および利害関係者の意向がどう変化しているか、という面も見過ごせない。今回のテーマはこの包括的ビジネスを取り巻く意識や外的環境の変化である。

 今回は4つの変化について明らかにしよう。それらは、1)日本企業の新興市場(BOP市場ではない)に関する意識、2)市場需要の動向、3)開発セクター(国際機関やNPO)および日本政府の変化、4)資本市場の意識変化、である。これらを俯瞰することによって、今後の日本で社会性と経済性を共に追求する包括的ビジネスへの動機付けが高まり得るのかどうかを外部環境の視点から論じる。

(注)1)と2)の厳密な違いはいまだ不分明であるが、これは今後の研究に委ねることにする。