資本市場の意識変化
第4の外的環境として、資本市場の変化を見てみよう。おそらくは、包括的ビジネスに最も大きなインパクトを与えるのは、この変化ではないかと個人的には考えている。なぜならば、資本がビジネスにとって必要不可欠な経営資源であることは言うまでもないが、起業による開示文書へのESG項目の組み込みなど制度上の変化が含まれていて、啓蒙策や揺籃期の一時的支援策と比べ、より構造的・継続的な変化だからである。
2006年に国連が発表した責任投資原則(Principles for Responsible Investment: PRI)は、1999年のグローバルコンパクトが、主として実業の担い手である「企業」を対象にしたものであるのに対し、「投資家」を対象にしたものであるという意味で、資本市場の変化を促す重要な契機と言えるだろう。この原則によって、すでにSRI(社会責任投資)という呼称に取って代わった感のあるESG投資、という概念が登場する。投資対象企業の選別において、環境(E)、社会(S)、企業統治(G)に配慮した企業を積極的に考慮する投資姿勢である。これを契機に、ESG項目に関する情報開示への動きが加速した。
2008年には、上位14の米国機関投資家が証券取引委員会に対し、10Kレポート(企業の業績報告書)がESG項目をカバーするように要請、2009年にはそれに呼応するようにBloomberg がESG項目を組み込んだ企業情報データベースを発表する。そして2010年には、欧州のアナリスト団体(European Federation of Financial Analysts Societies: EFFAS)が、策定が大詰めを迎えているIFRS(国際財務報告基準)にESG項目の報告を組み込むよう要請した。企業に対する環境・社会への配慮、積極的関与への資本市場からの圧力は、強まりこそすれ、今後弱まることは想定しにくい。
下表は、第3、第4の変化を一つの年表にまとめたものである。