慈善的成果追求の限界

 こうしたインパクト・インベスティングが着目されている理由は大きく二つある。一つは、これまでは純粋に財務的リターンのみを追求してきた投資家のマインドの変化である。そもそも社会的・環境的懸念から持続性が確保できないかもしれない事業(例:環境を悪化させたり、貧困を見過ごすもしくは悪化させるような事業案件)は、純粋に財務的見地からも投資対象にすべきではない。また特にリーマンショック以降、単純な利潤最大化アプローチに限界を感じた彼らは、より広範な投資機会へ自らのポートフォリオを多角化させる必要性を感じていた。その新たな分散投資先として社会的環境的インパクトを持った事業への投資が選択されるようになっている。

 第2の理由は、純粋に慈善的成果を追求することの限界である。様々な慈善団体や国際機関、NPO/NGOは開発途上国の社会問題解決に尽力してきた。だが、資金源が個人の道徳心や政策(寄付金税制など)、利益の一部に依存するため、安定的な資金確保が困難で、持続性に限度がある。また、慈善活動では経済合理性の観念が欠如しがちなため、活動の効率性が低い傾向が強い。こうしたことから、彼らの様々な大義(cause)を達成するために、営利企業の持つ経済合理性、効率性追求能力、市場原理を活用したいというニーズが大きくなっている。それは「民間セクターにおける開発 (private sector development)」という言葉に象徴されている。

 こうした二つの理由を図示したものが下図3である。

 図3:インパクト・インベスティングの概念図(右上の象限)

 

 最後に、包括的ビジネスへの投資が促進される条件を、前述のモニター・インスティテュートのレポートから5点紹介しておく。

1.様々な投資家間での価値観と概念の共有

 To build an infrastructure of the new industry, i.e., common metrics, language, and investment network for collective action.  ⇒ ロックフェラー財団が支援するGIIN

2.需要と供給のマッチング

 To develop efficient intermediation platform, i.e., financial institution especially designed for impact investing. ⇒ 同GIIN

3.社会的価値につながる大型投資案件の発掘と生成

 To develop investment opportunities, i.e., cultivating entrepreneurs at BOP, and supporting private sector innovation such as clean technologies. ⇒戦略研究者も貢献できる領域

4経済的指標と社会的指標を統合した投資案件評価スキームの策定

 To integrate social and environmental value drivers, such as deal screening criteria, into investment decisions. ⇒ 戦略研究者が貢献できる領域

5.社会的投資を促進する政策の探索と組み合わせ

 To respond regulations or tax policy (e.g., the Green Funds Scheme in the Netherlands or affordable housing in the U.S.) ⇒戦略研究者も貢献できる領域

 以上みてきたように、包括的ビジネスへの取り組みを促す重要な外部環境変化が生じてきており、今後包括的ビジネスへの期待と要求はさらに増加していくと考えられる。これに反応し、この重要な事業機会に乗るか乗らないかは、個々の企業の内発的動機(戦略的意図)にかかっている。

(参考資料1)国連による「ミレニアム開発目標」(Millennium Development Goals)

(参考資料2)Monitor Institute (2009) Investing for Social & Environmental Impact: A Design for Catalyzing an Emerging Industry, Monitor Institute: Cambridge, MA.