課題解決範囲の拡大とイノベーションを加速させる政策立案

 アメリカのIT業界ではNGOを起点に先進企業が主軸となって政府も巻き込みながら環境規制作りが着々と進んでいる。データセンターに利用されている世界中の消費電力量を合算するとアメリカ、中国、日本に次いで世界5番目の国の規模に達しており今後も急激に増加していく。このことを指摘したグリーンピースは2009年2月、先進IT企業向けにデータセンターの電源を再生可能エネルギー(以下RES:Renewable Energy Source)に切り替えることを働きかけるCool ITキャンペーンを開始した。

 キャンペーンでは先進IT企業に対して政府にRES普及推進政策を働きかけるアドボカシーの積極化も強く盛り込まれていた。そして2年後の2011年4月にはグリーンピースが働きかけていたカリフォルニア州に対する電力会社の電源を2020年12月31日までにRES比率33%に高める法案が可決された。

 キャンペーンに参画した世界中の顧客からの声を受けて、グーグルは非公開にしていた電力の総使用量を2011年9月に公開し、25%であったRES比率を2012年末までに30%まで引き上げた。フェイスブックは2011年12月、サービス提供するためのオペレーションに必要な全ての電力をRESに切り替えることを宣言した。一方イーベイは事業基盤であるユタ州が他地域からのRES調達を禁止していたため9割が石炭火力である地元の電力会社から電力を調達せざるを得ない環境にあった。そこで同社はグーグルやツイッターらと協働して州政府に働きかけ、2012年3月に州法改正を実現してRESの調達を可能にした。また、アップルはノースカロライナ州とオレゴン州にあるデータセンターの電源を100%RES化することを2012年の5月に発表した。そして各社はデータセンターのエネルギー効率を高めるための研究開発も一気に加速させたのである。

 このキャンペーンの重要なポイントは電力会社に対してではなく、その主要顧客となるIT企業の電力調達改革を実現することである。そして、米国の先進IT企業は電力会社に任せず、自ら直接投資を行って自社のデータセンター電源のRES化に着手し、米国政府へのRES普及に向けた技術投資政策の促進や、州法の改正など政策作りを積極的にリードする方向に動いたことだ。カリフォルニアに本社を置く多くの先進IT企業がNGOのキャンペーンを受け入れてRES化の方向に動き出したことが、革新的な州法の制定を実現させる力を作ったのである。

 この例では、自社だけで解決できない問題であっても、積極的に業界を越境して技術イノベーションを試みるアクションを先進企業が実践したことが重要である。そしてNGOは法案の起案者になり、IT企業が求める方向に電力会社の行動を変える州法の制定を州政府に対して実行した。これらの企業は、NGOから提起された問題が自社の業界を超えたところに原因があっても、それを主体的に解決することをイノベーションの機会として捉えたのである。