こういう考えはなくなればいいと思う。しかし反対に、会社を立ち上げれば誰もがすぐに富と名声を手に入れることができる、という妄想を広めるのもよろしくない。エリック・リースは最近、次のような持論を展開している――「起業はクールでもセクシーでもなく、きわめて厄介なものだ。面倒で退屈な部分が映画の中で描かれることは決してない」。そして、テレビのリアリティ番組の中で描かれることもないだろう。
セレブ化の影響で、「スター志望」の起業家が突如として増えてきた。この人種の急増は、ベンチャー界のエコシステムの健全性を脅かす。コメディ系動画サイトのカレッジ・ユーモアで公開されたこの風刺は、残念ながら痛いところを突いている。
スター志望の起業家には、2つのタイプが存在するようだ。まずは「アイデアマン」。たとえば、元々ハリウッドでチャンスを狙っていたが、「次世代のソーシャルメディア分析プラットフォーム」というアイデアだけを思い立ち、人々に「ワオ体験」(感動的体験)を与えようとシリコンバレーにぶらりとやってくる者だ。あるいはMBAをつい最近取得した、自称「ビジネスモデルと収益化のエキスパート」かもしれない。この種の人々は気に障るほど大口を叩くが、比較的無害である。
2つめのタイプは、前者よりもはるかに危険である。IT製品の開発能力に長けたエンジニアやデザイナーでありながら、セレブ化の熱に浮かされた人々だ。ただ「株式会社自己満足アプリ社 創業者兼CEO」の肩書を手に入れたい一心で、みずからの可能性を制限してしまっている。重要な問題を解決し世の中を変える力を持つ企業で自分の才能を生かすかわりに、誰も欲しがらない退屈なiPhoneアプリを開発し続けることになる。その結果、変革を生む可能性を秘めたベンチャー企業の多くが、人材不足にあえぐことになるのだ。
私たちは、残念な病が蔓延し最悪の事態を引き起こす前に、「スター志望ウイルス」を隔離しなくてはならない。このウイルスはアーリーステージの起業環境に雑音と混乱を生み、不健全なモチベーションを助長し、人材活用の不全を招く。すると、起業による経済的な可能性と社会へのインパクトが著しく阻害されることになるのだ。