幸いなことに、2つのタイプのスター志望ウイルスには同じ薬が効く。私は、社会学的アプローチと方法論的アプローチを組み合わせた手法を推奨している。(スター志望の起業家は、経済へのインパクトと社会への長期にわたるインパクトのどちらも十分に生まない)。
ひとつ有効なアプローチは、スター志望ウイルスに感染した人物を無視することだ。注目し相手にすれば、彼らをただ助長させるだけだ。
さらに深刻な場合には、より強硬な手段――特定、非難、無効化、完全破壊という4段階――が適しているかもしれない。スター志望の起業家が自分のアイデアを話している時、微笑んでうなずいたり、(たとえ冗談でも)アイデアを褒めたりしてはいけない。くだらないアイデアだとはっきり伝えるべきだ。そこまできつく言いたくない場合には、これだけは尋ねてみよう――それは本当に、取り組むに値する一番重要な課題なのか。「一生砂糖水を売り続けたいのか、それとも世界を変えたいのか。」(スティーブ・ジョブズがペプシからジョン・スカリーを引き抜いた時の有名なセリフ)
方法論的アプローチとしては、投資家も起業家も、事業がライフサイクルのどの段階にあるかをしっかり見極めて対応する必要がある(詳細はStarup Compassの英文サイトを参照)。投資家はしばしば過剰投資をしてしまうものだが、適切な投資額に抑えることで、起業家が好き勝手をしたあげく自滅することを避けられる。これによって起業家も、より現実的な目標を持ち、その平凡なTo Doリストのアプリを欲しがる人々が本当にいるのかを正しく判断できるようになる。また、起業などすべきでないと説く非現実的な権威主義をなくすことにもつながる。スター志望の起業家に直接、妄想に浸るのをやめろと伝えなくても、秩序立った投資はおのずと彼らを現実に素早くひき戻し、ハリウッドの後光を消し、真に重要なことに取り組ませることができる。そして、明日の経済を担うベンチャー界のエコシステムから要らないものを取り除くことになるのだ。
ITベンチャーは、経済の持続的な繁栄の有効な手段とされ、メディアや人々の注目を集め、お金を引き寄せている。これは当然であろう。ただし、もてはやされてよいのは、真に変革をもたらす企業を立ち上げた人々だけだ。さもなければ、スター志望ウイルスは悪化の一途をたどるだろう。
起業家が力をつけていくにしたがって、起業家コミュニティが本分を忘れず繁栄していくことを期待したい。それは名声でも、称賛でも、お金でもない。世の中を変え、人類の進化を促す製品をつくりたいという気持ちこそ、起業家が起業家たる理由なのだ。
HBR.ORG原文:The Danger of Celebritizing Entrepreneurship October 3, 2012

マックス・マーマー(Max Marmer)
スタートアップ・ゲノム創設者。同社が提供するベンチャー支援ツール、スタートアップ・コンパスは世界中の16000以上のベンチャー企業に採用されている。