国内のアカデミアでも「集合知」領域やその周辺領域を研究している新進気鋭の研究者も多い。例えば東京工業大学で未踏分野・萌芽的研究として「東工大挑戦的研究賞」を受賞している東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科の辻本研究室では、技術経営の視座から「集合知」領域やその周辺領域を研究している研究室であると言えるだろう。例えば、組織に所属する研究者と組織内外の研究者との相互作用といった「共鳴メカニズム」の研究や、ゲーム機、電子マネー、電子書籍、電気自動車、スマートフォン、スマートハウス等を対象に、企業群が形成する「ビジネス・エコシステム」の成長と衰退のメカニズムを研究している。また異なる企業間におけるテクノロジーのエクスチェンジを担う‘Boundary Mediators’という存在を示唆するなど、MITのCCIのように、マネジメントの先端のテーマに「集合知」領域を応用している研究室である。
また同大学のイノベーションマネジメント研究科の梶川研究室では、知識の爆発的な増加と研究分野の細分化により、知識が俯瞰しにくくなった昨今、蓄積した知識を関連づけすることで、「専門知」の活用を促進する「知の構造化」を研究している。
具体的には、下記のネットワーク分析による俯瞰マップというツールを用いて、分野の全体像および研究動向を把握し、各研究分野における主要な研究トピックや萌芽領域の探索を試みている。下記のネットワーク図は「サステナビリティー(持続可能性)」という学術研究の俯瞰マップである。この俯瞰マップは、ノード(個別の要素)とリンク(要素間を繋ぐ線)から構成されている。
この俯瞰マップは「距離中心性」という考え方を採用しており、ノードから他のノードへ最短距離を通った場合に、平均して何本のリンクで到達できるかを表した値で位置が決まる。この値が小さいほどネットワークの中で中心に位置していると言える。梶川研究室では、このようなコンピューター解析によるネットワーク分析を活用して、グローバルで発行される論文(ノード)と引用分析(リンク)から「専門知」として蓄積された「知の構造化」を研究している。
下記の「学術俯瞰マップ:サステナビリティー学」はグローバルで発行されている論文と引用分析から「サステナビリティー学」が主に15の研究領域から構成されていることを示している。各グループの番号の意味は、#1のグループは論文発行数が多く、年数も経過している中心グループであり、#15が最も小さいグループの意味である。こうした分析からこの学問の中での相互の繋がりや、未踏の分野(例:サービスサイエンス、イノベーション学、エコシティ、スマートグリッド等)や萌芽領域が映し出されている。
以上のように、「集合知」の概念は、今日、様々な領域に応用され、複雑系、人口知能などだけでなく、MITのCCIの例のように社会科学系の領域にも展開されている。