筆者らが主宰する(株)博報堂の人材育成を担う企業内大学に設置された「人間を中心としたイノベーション」を研究するヒューマンセンタード・オープンイノベーションラボでも、“集合的な創造性による問題解決の手法”として「デザイン思考(Design Thinking)」を業務の知見を活用しながら研究している。
「デザイン思考」の生みの親は、デザイン・コンサルティング会社のIDEOのティム・ブラウン氏である。また「デザイン思考」の学術的な研究は、イノベーション教育で世界的に著名なスタンフォード大学D.schoolが中心である。
そもそも「デザイン思考」とは何なのか?簡単に言えば、“人々の生活や価値観を深く洞察し、ユーザーが何を潜在的に求めているのかを感知しながら、プロトタイピングを通じて、新しいユーザー体験を提供するイノベーション・プロセス”である。慶應義塾大学SFCデザイン思考研究会が翻訳したスタンフォード大学D.schoolとIDEOのデザイン思考のツール集がダウンロードできるので、興味のある方はぜひダウンロードして試しにやってみて欲しい。
筆者らもこの「デザイン思考」が“異なる知性がコラボレーションできる状況を創り出す「集合知」のツール”としていち早く注目して研究を行ってきた。そして、人間を中心としたオープン・イノベーション事業を推進するTBWA博報堂では、国内の会社ではいち早く社内にCADシステム、3Dプリンター、レーザーカッター、CNCルーターなど、デジタル・ファブリケーション・ツールを揃えたデザイン思考のための工房を設置し、デザイン思考研究の第一人者である奥出教授((株)オプティマ/慶応大学教授)などと連携しながら手法を開発し、イノベーションを求める企業に提供している。
そもそも、デザイン行為とは、価値や意味が存在する心理空間から、物質の状態や属性が存在する物理空間への写像行為である、と筆者らは考えている。つまり、心理空間から物理空間へ的確にニーズを反映することで人間中心のデザインが具現化すると考えている。
この“的確な写像行為”を行うには、様々な部門の壁を横断してデザインしていく必要がある。デザイン行為は元来、機能横断的であり、調整役としてのデザインの価値については過去、十分に研究されてきている。Griffin (1996)らによって示唆されるように、R&D機能とマーケティング機能の融合は以前から叫ばれてきた話であるが、その融合に必要なのは各々の部門で共有する言語である。筆者らは、集合的な創造性に必要な言語こそがデザイン思考で用いる「デザイン言語」であると考えている。
ビッグデータは機械学習などで大量の形式知を分析することで、今まで見たこともない、または、見ることができなかった集合知が生まれることがある。一方で、デザイン思考は、ツールやワークショップ等のデザイン・プロセスを通じて、暗黙知を形式知化する、もしくは、暗黙知と暗黙知を集合的にぶつけ合うことで、新たな暗黙知・形式知を産み出すプロセスであると言える。そのデザイン・プロセスで共通言語となるものが「デザイン言語」である。
第2回では、なぜデザイン言語やデザイン思考が“異なる知性がコラボレーションできる状況を創り出す”「集合知」のツールになるのかを事例を交えて説明してきたい。
(高松充、及部智仁)
デジタル・ファブリケーションを揃えたデザイン思考の工房や、世界トップクラスの技術探索企業であるナインシグマ・ジャパンとの業務提携などを通じて、オープン・イノベーション事業を推進。詳細についてはこちらをご覧下さい。
博報堂大学 ヒューマンセンタード・オープンイノベーションラボについて
通称「博報堂大学」(正式名称 HAKUHODO UNIV.)は、博報堂の人材育成を担う企業内大学です。構想力を高めることを目的に、基礎的な能力開発プログラムに加え、「構想サロン」「構想ラボ」などのプログラムを通して、中長期的な視点での新たな価値創造やイノベーション創出にチャレンジする機会をつくることもその機能の1つです。「博報堂大学」についての詳しい紹介は、こちらをご覧ください。