DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー9月号の特集は「集合知を活かす技術」です。本誌の集合知特集に合わせて、本日から新連載「オープン・イノベーションとデザイン思考」が始まります。博報堂大学ヒューマンセンタード・オープンイノベーションラボとTBWA博報堂がお送りする今回の連載。
博報堂大学ヒューマンセンタード・オープンイノベーションラボとは、デザイン思考の中核的な考え方である“人間中心のデザイン(HumanCentered Design)”を起点としたイノベーションを研究するラボのことで、博報堂の社内大学である博報堂大学でラボを運営中です。具体的には、オープンイノベーションを加速させるデザイン思考や、スタートアップとのコラボレーション手法などを研究しています。
またTBWA博報堂は、上記のHCOIラボでの研究を軸に、オープンイノベーション事業を推進。デジタル・ファブリケーションを揃えたデザイン思考の工房や、世界トップクラスの技術探索企業であるナインシグマ・ジャパンとの業務提携などを通じて、様々なイノベーション開発に日夜取り組んでいます。
第1回目はオープン・イノベーションを理解するうえで欠かせない概念「集合知」と、その集合知のツールとなる「デザイン思考について」語っていただきます。
そもそも「集合知(Collective Intelligence)」とは何なのか。「集合知」という英語だけでも、Collective Intelligence、Collective Knowledge 、Collective Wisdomと多様であるのでいまいち捉えどころが難しい。
「集合知」と言うと、「ある共通の目標や問題を解決するために、知を蓄積し、活用すること(Brown and Lauder,2000)」、「集合的な創造性による問題解決の手法(Boder, 2006)」というような意味で使われることが多いと思われる。
そもそも「集合知」を論じる研究者は、マウスの発明やGUIの先駆けであるダグラス・エンゲルバート氏のようなコンピューター・サイエンティストを皮切りに、サンタフェ研究所を中核にする複雑系、人口知能、ネットワーク理論の影響を受けていることが多いと思われる。だが、一般的に「集合知」と聞いて思い当たるのはスロウィッキーの「群衆の知恵(Wisdom of clouds)」かもしれない。
コラムニストであるスロウィッキー(2006)が書いた『「みんなの意見」は案外正しい』がベストセラーとなったことで、ソーシャルメディアを駆使した「集団の知恵=集合知」が、まるで「魔法の知恵」であるかのように期待される方も多いのではないだろうか。
「集合知」はアカデミアでも元来、注目されている領域である。「集合知」で有名な学術センターといえばマサチューセッツ工科大学(MIT)にあるThe Center for Collective Intelligence(CCI)であろう。
CCIはMITにある複数の研究機関から構成される学術センターであり、まさに集合的に知が集まる研究センターと言える。具体的には、伊藤 穰一氏が所長を務めるMITのMedia Lab、人工知能の研究機関であるComputer Science and Artificial Intelligence Laboratory、脳&認知科学の研究機関であるDepartment of Brain and Cognitive Sciences、ビジネススクールのSloan School of Managementなどで構成されており、各々の知見を結集して「集合知」の可能性の研究が行われている。例えばCCIでは「集合知」を、“組織の生産性”、“組織の収益性”、“チームワーク”、“リーダシップ”など様々な領域に応用しようと研究している。とくに欧米で注目されている“組織効率だけでなく、組織が社会的な公器として、いかに正しい行動をとれるか”というOrganizational Effectivenessというマネジメントに関する先端のテーマにも「集合知」を応用しようという挑戦的な研究がされているという。