カテゴリーの進化についていくのは大変だが、それでも周囲を見回せば、その道のプロはすぐにみつかる。私の同僚は筆記具マニアで、ステイプルズのペン売り場に足を踏み入れようものなら時間を忘れてしまう。近所のビジネスマンは出張が多く、ラップトップには一家言ある。重さやバッテリーの寿命など、市場に出回っている製品のほとんどを徹底的に比較している。

 彼らは理想の顧客である。購買力があり、知識が豊富で目が肥えている。キヤノンのEOS40DとニコンのD90の違いがわかり、博識で自信に満ちている。鑑識眼は強い愛着の裏返しであることが多く、たいていがエキスパートであると同時に熱烈なファンだ。

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 しかし、ある段階に達すると、もはや愛好家でさえ区別がつかなくなる。「青」をいくつもの言葉で表現できたところで、そこに意味を見出せる人は少ない。

 私も近所のビジネスマンのように理想のラップトップを探し求めた時期があったが、最近では軽ければ何でもよくなった。洗剤も以前はこのブランドのこの種類のこのサイズ、と決めていたが、洗剤コーナーの最新の品揃えに追いつくのは、とうの昔にあきらめている。

 カテゴリーが成熟すると、購買頻度の最も高い消費者でさえ比べる努力をむなしく感じ始める。これは危険な転換点だ。差別化要因と非差別化要因の重みが変化し始める。ささいな違いに注目する愛好家が減り、違いの意味に疑問を持つ顧客が増え始める。

 この段階にいたると、市場の不協和音にどう対処するかによって顧客セグメントが分かれる。「目ざとい〝買い物上手〟」「関心の薄い〝現実主義者〟」といった消費者の類型は後で紹介するが、いずれにせよ、カテゴリーに対する愛着は時間とともに薄れ、無関心や混乱、シニシズムが広がる。

(第3回に続く)

 

DIFFERENT by Youngme Moon
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