4. デザインカルチャーとハッキングマインドの交差から

 このように「Internet of Things」の時代においてイノベーションを生み出すためには、「デザイン」と「アルゴリズム」が上手く融合できるように “デザインカルチャーとハッキングマインド”が交差する空間や文化をシリコンバレーのように国内でも醸成していかなければならないと筆者らは考えている。これに向けた取組み事例として「大阪イノベーションハブ」のケースを簡単に紹介したい。

 大阪イノベーションハブは「地域や国境を越えてさまざまな技術やアイデアをつなぎ、世界に求められる新たな価値を創造するイノベーションプラットフォーム作る」という橋下徹市長のビジョンのもと、2013年4月に官民一体となって創設されたオープン・イノベーションの拠点である。支援するメンバーは、校條浩氏を筆頭にイノベーションの専門家が集っている。

 シリコンバレーで起業する日本人の間で校條(めんじょう)浩(ひろし)氏のことを知らない人はいないのではないだろうか。日本とシリコンバレーを結ぶキーパーソンである。校條氏はシリコンバレーでファンド・オブ・ファンドを活用した戦略コンサルティングサービスを行うネットサービス・ベンチャーズのマネージングパートナーでもある。またシリコンバレーで起業する日本人を支援するネットワークのSVJENのボードメンバーでもあり、大阪をシリコンバレーのエコシステムの一部とすべく、大阪イノベーションハブとシリコンバレーを結ぶ活動の支援を行っている。

 また、この大阪イノベーションハブの推進担当役に公募で選出された吉川正晃氏(大阪市都市計画局理事兼経済戦略局理事)は、クボタ時代に米国で新規事業設立の経験を持つ民間出身のプロフェッショナルだ。吉川氏は、大阪市が組成するグローバル・イノベーション・ファンド(仮称)や、ファンドを利用した起業家の支援をするなど、人・モノ・金・情報をシリコンバレーと連携して集めるといった多岐にわたる業務を推進している。その中でもユニークなのが「ものアプリハッカソン」である。

 ハッカソン(Hackathon)とは、耳慣れない言葉だが、「ハッキング」と「マラソン」を組み合わせた造語のことだ。元々はシリコンバレーのプログラマーたちが24時間という制限時間の中で、技術とアイデアを競い合う開発イベントの一種であった。フェイスブックを一躍有名にした「いいね!」ボタンも同社のハッカソンを通じて誕生した機能だとも言われている。

 大阪イノベーションハブが開催している「ものアプリハッカソン」のゴールは、オリジナルの「Internet of things」のプロトタイプを完成させることである。「健康」がテーマであった第2回目となる「ものアプリハッカソン」では、部品調達の日数も考慮して1週間連続の開催であり、徹夜続きの社会人もいたという。優勝した「共感ロボット シナスタ」は難病などの患者が痛みを周囲の人や遠隔地のいる人と共感できるためのロボットであるという。このように大阪イノベーションハブは、プログラマーだけでなく、プロダクトデザイナーやエンジニア等が集うことで、「新しい意味的価値を生み出すデザイン」と「ICTを活用したアルゴリズム」が融合したユニークな「Internet of things」のプロトタイプを数多く生み出している。また「ものアプリハッカソン」だけでなく、Osaka Hackers Clubというハッカーやデザイナーが集まる会員制のクラブを組成して、グローバル展開を見据えた起業や新規事業開発の支援をしている。まさに“デザインカルチャーとハッキングマインド”が交差するイノベーション・ハブと言えるだろう。