「オープン・イノベーションとデザイン思考」もついに今回が最終回です。「Internet of Things」(モノのインターネット化)時代には、データサイエンティストたちの活躍が期待されます。その理由やデータサイエンティストに求められるスキルについても考えてみましょう。
最終回の第4回では、第1回〜第3回の議論を整理しながら、事例を交えて「Internet of Things」(モノのインターネット化)時代における「デザイン思考」と「データサイエンティスト」の融合の重要性について説明していきたい。
1. 「集合知」の領域と「集合知」を増幅するツールについて
まずは第1回から説明してきた「集合知」について今一度、整理しておきたい。ビッグデータの時代において「集合知」の議論は今後も活発にされていくであろう。マイケル・ニールセン(2013)のフレーム(注1)を援用すると、「集合知」は下記の図の通り、2種類の領域に活用できる。
図の右側の円[集合知の領域Ⅱ]は、人間のスキルと工夫が最も機能する問題領域を示している。一方、データドリブン・インテリジェンスが威力を発揮する左側の円[集合知の領域Ⅰ]は、第1回目の東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科の梶川研究室の事例で紹介したようなコンピューターを使って世界中にある科学論文の引用関係や次の科学の萌芽領域を探索したり、矮小銀河を発見するために膨大なSDSS(Sloan Digital Sky Survey)のデータを掘り起こしたりするような、ギガバイトやテラバイト級のデータから新しい意味を引き出すという、人間の処理能力や人工知能よりも射程の広い領域である。
今回の連載で説明してきたように、「デザイン思考」は右側の円における「集合知」を増幅するツールの1つであると言える。「デザイン思考」は異分野のメンバーと、観察対象に感情移入をして自らの経験を拡大する「エスノグラフィー」や、手を動かしながらアブダクション(仮想法)を無数に繰り返す「プロトタイピング」の経験を共有することによって、暗黙知と暗黙知をぶつけあう「共同化」、暗黙知から形式知への「表出化」を促す。つまり異分野のメンバーと「共同化」や「表出化」を繰り返し、止揚する中でニーズとシーズの因果関係やメカニズムを感知し合いながら、「新しい意味的価値を生み出すデザイン」を探索していくのに適している。
一方、左側の円においては、「データサイエンティスト」が開発するアルゴリズムが「集合知」を増幅させるツールとなると言えるだろう。「データサイエンティスト」が開発するアルゴリズムのわかりすい例としては「グーグル・インフル・トレンド」がある。検索エンジンに入力されたクエリーと呼ばれる検索文字列を分析することで、どこでインフルエンザが発生しているか即座に追跡できるというものだ。例えば、東京の住民がこぞって「せき止め」、「のどの痛み」、「学級閉鎖」、「タミフル」などインフルエンザと相関係数の高い検索文字列(クエリー)で検索していれば、今まさに東京でインフルエンザが蔓延しつつある可能性があると予測するものである。実際のところ「グーグル・インフル・トレンド」は米国疾病対策予防センターの科学者たちの予測とほぼ一致する確度(97%)で予測可能とのことである。