川名:かつてのCMO1.0と、今日のCMO2.0とは、何が最も大きな違いでしょうか?

セイガー:一言でいうならば、CMO2.0では企業の中における戦略的なリーダーという役割が大きいことです。マーケティングを主導するだけではなく、真のビジネスリーダーでもあります。そして、分析やマーケティングの科学の部分に関してよく分かっていることが求められますね。また、結果に対して真の説明責任を負える人です。ビッグデータを戦略的に活用することによって、より適切なマーケティングを行い、顧客に対してより良い結果を導き出すのです。
CMO2.0では、芸術と科学のバランスが取れていないといけませんが、ここは一番難しいですね。特に大企業になればなるほど、この役割へのプレッシャーが大きくなってきます。芸術と科学、どちらかに偏ってもいけないのです。ブランド戦略や消費者インサイトの分析において、バランス感覚を忘れてはいけません。
CMO2.0で大きく変わるCMOの位置づけ
川名:するとCMO2.0は、CMO1.0より戦略的であり、ビジネスを牽引していく上でより高い位置にあるということになりますか?

(かわな・あまね)
株式会社博報堂エンゲージメントプロデュ―ス局長。1985年博報堂入社。以来20年間、マーケティングセクションにて、様々な業種の広告主に向けた新商品開発、広告戦略立案、ブランド戦略構築等に関わる。2006年i-事業推進室を経て、2010年より現職。デジタル基点の統合マーケティングを担当。駿河台大学メディア情報学部客員教授、日本マーケティング学会員。共著に『「自分ごと」だと人は動く』(ダイヤモンド社)、解説に『本当のブランド理念について語ろう』(阪急コミュニケーションズ)がある。「本当のブランド理念について語ろう」出版記念時、ジム・ステンゲル氏インタビュー(博報堂consulactionより)
セイガー:アメリカでは、CMOはCEOに直接レポートする立場であることが多いです。マーケティング部門責任者も役員会の席に着きます。私はチャールズ・シュワブ時代にCEOにレポートしていましたが、同僚の部門長やCFO、CTOらはCOOにレポートしていました。私は結果に対して説明責任をとる必要があり、また、マーケティングがより重要視されていたため、CEOへ報告を上げていたのです。
川名:CMO1.0の頃は、そこまで地位が高くないCMOもいたということでしょうか?
セイガー:いたかもしれませんね。ビジネスにはいろいろなやり方がありますが、私のようにマーケティングすべてを見るならば、ブランド戦略、マーケティングのコミュニケーション、広告と全部に対して責任をとらなければなりません。分析をうまく使えないと、戦略的なリーダーという役割は果たせないと思います。
川名:デジタル技術の発達により、マーケティングは効果測定ができるようになりました。マーケティングが戦略的に重要になったと語れる人がCMO2.0を作ったということはないでしょうか?
セイガー:一部あるでしょうが、デジタルマーケティングだけが重要なのではありません。1番大事なことは、クロスチャネル分析にあります。デジタルメディアも伝統的なメディアも、顧客とのあらゆる接点を含めて、マーケティングが消費にどう効果を上げているかをすべて見られるのがCMO2.0だと思います。
CMO1.0での問題でしたが、マーケティングの中で組織がサイロ(たて割)になっていると、デジタルもサイロのひとつになってしまいます。今は営業チャネルなどすべてを組み合わせて見られるのがデジタルの本当の力で、ビジネス全体にも影響を与えているのではないでしょうか。