CMOの主な役割は生活者の声をとらえること
川名:デジタルは1つのサイロの中ではなく、横に、横断的に広がる。分析のテクノロジーもそうだということですね?

セイガー:そのとおりです。デジタルは顧客体験も進化させていきます。今、生活者は何かをするときに、あまり深く考えることなく同時に複数のデバイスを使っていますね。CMOが消費者インサイトや需要の分析を牽引していくのであれば、顧客の生活全般を見ていかなければならないと考えます。CMOの主な役割というのは、生活者の声をとらえることで、それがますます重要になってきています。
川名:個別ではなくて、包括的に生活者全体を見る必要がありますね。そうするとCMOのように全体を見ることに責任を持ち、結び付けていく人が絶対に求められます。
セイガー:そうです。何年か前は、CMOやマーケターは戦術にとらわれがちなところがありました。CMOは1つひとつの戦術を熟知している必要はないけれども、あらゆる戦術を組み合わせて描く全体像を把握していないと近視眼的になってしまいます。
川名:アメリカにはそうしたCMOが3000人ほどいると聞いています。日本では、マーケティングのスーパースターといった人がなかなかできにくく、チームでCMO機能を行えないかと考えているのですが、どう思われますか。
セイガー:組織設計も大事ですが、まずは企業がマーケティングは生活者とのつながりにおいて重要なのだと認識することが大切です。ブランドと製品、そしてバリュー・プロポジションを、生活者が求めていることと結び付けていくのがマーケティングです。それを認識すると、効果的に行う組織を作りましょうということになるかと思います。
どういうシステム、取引、売り方をするかというサプライサイドだけではなく、生活者が何を求めているのかという需要サイドを見なければなりません。この2つをつなげるのがマーケティングでしょう。
川名:マーケティングで科学的なことはCEOにレポートしやすいけれど、芸術的なことはレポートしにくいのではないでしょうか。CMOの能力のひとつとして、芸術面をいかにレポートできるかが問われているのではという気がするのですが、いかがですか。
セイガー:私が大好きな引用文に「しっかり定義された戦略の中から、自由(に戦術)を提供してほしい」というものがあります。ビジネスの戦略において何をしなければいけないのか、そして何を達成しなければいけないのかということをはっきり理解した上で初めて芸術性を発揮できるということです。
私はオグルヴィ・アンド・メイザー時代に「ダヴ」ブランドを担当していましたが、常に女性の自尊心ということを掲げていました。これは芸術面に属することです。生活者を理解し、仕事の成功をけん引するのは何かというと、やはりアイデアです。CMOはアイデアを目に見える形にするのが仕事です。戦略を行い理解した結果、素晴らしいアイデアができたときに、マーケターはとてもやりがいを感じるのではないかと思います。
(第2回へつづく)
【連載バックナンバー】
世界を代表する“The CMO”が語る
第1回 カンヌライオンズでの新たな挑戦とCMOの役割(その1)
第2回 カンヌライオンズでの新たな挑戦とCMOの役割(その2)
第3回 カンヌライオンズでの新たな挑戦とCMOの役割(その3)