同じ手法を、従業員エンゲージメントを構築するのに適用すると仮定しよう。これまでの手法をどのように変えるべきだろうか?

 まずは、従業員の時間を尊重し、最も重要な示唆につながる質問に絞った短い調査票を用いる。これを、エンゲージメントレベルと改善に向けたアイデアの安定した情報の流れができるような頻度で実施する。前回の記事で紹介したジェットブルーは、従業員の就業開始日から90日後とその後毎年調査票を送っている。アップルは、数カ月に一度従業員に調査票を送っている。

 また、この作業を人事部にただ任せるのではなく、従業員エンゲージメントを現場のマネジャーや従業員自身の最優先事項と位置づけ、クローズド・ループの学習プロセスを組み込む。

「他の誰か」が処理するだろうという依存的な考えを取り除き、堂々と否定できない形で現場のマネジャーの責任とする。現にアップルストアではその手法が取られている。それぞれの調査の後、ストアマネジャーは自店のデータを確認する。従業員のフォーカスグループは鍵となるテーマや課題を特定し、従業員チームは解決案をストアマネジャーに発表し、解決策を考える。本社チームの分析や提案を待ったりしない。数カ月後に次の調査結果が出回る頃には、マネジャーや店舗スタッフは実行した解決策が目指す効果を出せたかどうか知ることができる。

 顧客ロイヤルティを得るために必要な基本的テクニックが、対従業員でも効果があるとしても驚きはないだろう。本質的な部分では、どちらの努力も相手に対する尊厳と敬意を表した処遇に基づいている。両方において即時の学習が求められ、人間関係を取引やデータだけでなく人間らしい方法で対処する。

 そして、両者は互いに強化し合う関係にある。従業員は顧客を喜ばせる方法を学び、それが実現した時に大きな喜びを得る。顧客もその体験に大きな喜びを感じる。それは我々が推奨者のフライホイール(弾み車)と呼んでいる好循環である――それは優れた財務パフォーマンスにもつながる。

 従業員エンゲージメントへのこれまでのアプローチは、本社部門からスタッフに対して指示を与えることが可能な福利厚生や職場改善に注力されがちであった。それらは「簡単に」実施できるからだ。確かにそれは重要なことである。安全で快適な職場環境、公平な報酬体系、仕事をするために必要なツールは、どれも従業員満足のために必要である。

 しかし、本当に必要なのは単に満足度の高い従業員ではなく、情熱ある従業員である。その企業で働くことが大好きで、商品やサービスを愛し、顧客を喜ばせることに自身の喜びを見出せるような従業員だ。これは、顧客の生活を豊かにするための真の献身と、従業員に顧客を喜ばせるためのツールと自由度を与え、行動の結果を見て聞くことができるような体制を整備して初めて実現できるものなのだ。


HBR.org原文:Engage Employees Using Customer Service Tactics October 10, 2011

*本連載は、ロブ・マーキーがフレッド・ライクヘルドと共著した『ネット・プロモーター経営』の中身をハイライトしたものです。
*第7回は11月29日公開予定。

 

ベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)
1973年に創設。世界32ヶ国に50拠点のネットワーク、約5700名を擁する世界有数の戦略コンサルティングファーム。クライアントとの共同プロジェクトを通じた結果主義へのこだわりをコンサルティングの信条としており、結果主義の実現のために、高度なプロフェッショナリズムを追求するのみならず、きわめて緊密なグローバル・チームワーク・カルチャーを特徴としている。