週末は下り電車が止まらない駅にあるホテルが大人気な理由

新世代のデザイナーズホテルとして誕生したニューヨークのACE HOTELの最大の特徴は、シュレーガー以上に徹底したロビー・ソーシャライジングにあります。

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ニューヨークのACE HOTELのロビーでは毎晩のようにイベントが開催され、週末は写真のような盛り上がりを見せる。

シアトル発の人気コーヒーショップ「Stumptown」や、有名ガストロパブの姉妹店レストラン「Breslin」、「Opening Ceremony」「PROJECT No.8」のような高感度ショップが並ぶ広々としたロビーは、昼はフリーWi-Fiを利用するノマドワーカーの憩いの場として、そして夜は、毎晩のようにイベントが開催されるパーティースペースとして開放されています。

「ACE HOTEL」で画像検索すればいくらでもその様子を見ることができますが、どちらかといえば、その光景はホテルというよりも、巨大なカフェかクラブのような印象を受けるはず。ニューヨーク在住のライターで、デジタルマガジン『PERISCOPE』の編集長を務める佐久間裕美子氏もこう語ります。

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佐久間裕美子氏:ニューヨーク在住ライター。慶應大学卒業後、イェール大学で修士号を取得。出版社、通信社などを経て2003年からフリーに。デジタルマガジン『PERISCOPE』の編集長も務める。

「オープンは2009年ですが、今もACE HOTELはニューヨークの人気スポットとして知られています。主な客層はクリエイティブ系の仕事をしている人々で、ミュージシャンの卵から著名な作家までさまざま。私はマルコム・グラッドウェル(世界的な人気を誇るコラムニスト)がロビーで原稿に赤入れをしている姿を見たことがあります。もっともニューヨークらしさを感じられるホテルと言えますし、値段もリーズナブル。日本から来る人にも、まずACE HOTELをオススメしますね」

しかし、ニューヨークのACE HOTELを語る際に忘れてはならないのが、そもそもホテルがある29thストリートは決してオシャレな場所とはいえない、うらぶれた地区であるということ。土日には、下りの地下鉄すら止まらないのです。

それにも関わらず、なぜACE HOTELにこれほど人々が集まるのか?

「オーナーのアレックスの経営コンセプトは、豪華なスイートに宿泊することでも、三つ星のレストランで食事することでもなく、ホテルに来ること自体が目的となるような場所を作ることでした。コーヒーショップも夜のイベントも、そのための理由づくりなんです。人が集まるようになれば自然と交流が生まれ、『ACE HOTELに行けば誰かに会える』という期待感を抱くようになり、ますます人が集まるというわけです」(佐久間氏)

つまり、多くの人が集まる仕組みをつくることで、利用客が愛着を感じるホテルになり、それが結果として宿泊のきっかけも増やし、さらにホテルを活性化させるということ。ロビーを広く開放しているのも、こうした好循環を生み出すためなのです。まさに、シュレーガーが提唱したロビー・ソーシャライジングの現代版であり、完成形です。

もっとも、ここまでのオープン化の試みはブランドに本質的な魅力がなければ支持されません。その点、ACE HOTELは高級感の代わりに新しいライフスタイルをブランドの中心に据えることで、どんどんファンを増やしています。