連載第3回目はラグジュアリーのオープン化の事例として、高級ホテルを取り上げる。これまで高級ホテルと言えば、ドアマンがロビーをしっかりと守り、厳かな雰囲気に包まれていた。しかしいま、そのような雰囲気が変わりつつあるという。

 

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世界の最新ホテルを100軒厳選して紹介した『Casa BRUTUS』2012年5月号。表紙はACE HOTEL(ポートランド)のロビー。

ラグジュアリーの現在を語るうえで、ホテル業界の動向は欠かすことができません。衣食住を包括するサービスを提供するホテルには、利用客の消費意識の変化がダイレクトに反映されるため、「いま、人々が何を気持ちいいと思っているのか」というトレンドが見えてくる場所でもあるのです。

連載の第1回でも述べたように、ラグジュアリーブランドは世界的なオープン化が進んでいます。各地の高級ホテルも、その流れとは無関係ではありません。

世界の最新ホテル事情を紹介した『Casa BRUTUS』2012年5月号の特集「100 BEST HOTELS」は、次のような巻頭言から始まっています。

「街の文化、景色、料理…そこにしかないものをリーズナブルな価格とちょうどいいサービスで提供する。インテリアやデザインが、自分の部屋のアイデアソースになる。そんな、旅人の気分を盛り上げるホテルが、世界中に続々登場しています。ゴージャスで奇抜なものから唯一無二の体験へ、いま、高感度な人が求めるホテルが変わりつつあるのです」

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ACE HOTELの入り口。見た目にゴージャス感はないが、ここが最近のニューヨークでもっともホットなスポットと言われている。

その流れを牽引したアメリカ・シアトル発の「ACE HOTEL」では、ロビーの入り口からして従来の高級ホテルとは違っています。重厚なドアの前に制服姿のドアマンが立ちはだかっているのではなく、デニム姿のスタッフがゲストを自宅に招き入れるかのように対応してくれるのです。

1999年にシアトルのクラブシーンで活躍していたアレックス・カルダーウッドが仲間たちとオープンしたACE HOTELは、2009年のニューヨーク進出で時代を象徴する存在となりました。『Casa BRUTUS』の同特集でも、集中的に紹介されています。

どうしてACE HOTELは人気になったのか? その背景を探るためには、アメリカにおける高級ホテルのオープン化の歴史を簡単に振り返っておく必要があります。