Rustic Luxeというモダニズムへのカウンター

では、ACE HOTELが提案する高級感に代わるライフスタイルとは何か?

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ニューヨークの路地裏レストラン「FREEMANS」。この温かみのある内装こそ、まさにRustic Luxeの代表例だ。

その代表には、2004年にニューヨークの路地裏でオープンした小さなレストラン「FREEMANS」があります。現在はメンズファッションブランドや理髪店も手がけ、日本への進出も果たしたこのブランドのコンセプトは、“MADE LOCAL, BUY LOCAL.”。それは「ハンドメイド」「オーガニック」「ヴィンテージ」といった、作り手と買い手が密接に結びついたつながりを重視する新たなラグジュアリーです。

例えばデザイン性。ACE HOTELはRustic Luxe(ラスティック・リュクス)と呼ばれるインテリアのスタイルを取り入れ、従来の高級ホテルとは一線を画しています。

「ラスティック・リュクスは日本語への翻訳が難しいのですが、温かみのあるヴィンテージ製品やハンドクラフト製品に価値を見出す今日的なラグジュアリーと言えます。そのスタイルはモダニズムに対するカウンターとして、ACE HOTELなど、より民主的なコンセプトのホテルに取り入れられています」(佐久間氏)

シュレーガーのデザイナーズホテルとの対比で言えば、ACE HOTELは2軒目となったポートランドにおける開業時から、既存の建物のリノベーションを基本にしています。

1912年創業の古いホテル(ポートランド)に始まり、砂漠のリゾートにおけるモーテルとファミレス(パームスプリングス)、長年にわたって多くのアーティストが若手時代を過ごしてきた安アパート(ニューヨーク)、そして今秋に開業したばかりのロンドンではビジネスホテルと、デザイナーが手がけるものであっても、シュレーガー的な華やかさとは違い、気取らない親しみやすさで街に溶け込んでいるのです。

地域とのつながりを大切にするACE HOTELのようなブランドは、世界展開してもその土地に根ざした企業活動を模索します。歴史ある建物をリノベーションするのは、デベロッパー側による意思表示でもあるのです。なおかつ、ロビー・ソーシャライジングとも非常に相性が良い。

ACE HOTELにとってロビー・ソーシャライジングが万人に開かれた入り口であるなら、こうした新しいライフスタイルは奥深いコア部分と言えます。ただ間違ってはいけないのは、コア部分を大切に守っているだけではダメで、簡単に揺るがない本質的な魅力があるからこそ、オープン化というかたちで敷居を下げ、多くの人に触れてもらう。ブランドにおけるファンの増やし方として、ACE HOTELの事例からはそんな教訓を学ぶことができます。

価格帯が超高級ではないため、ACE HOTELはラグジュアリーとは別の文脈に属するブランドだと解釈されがちです。ですが、その革新的な試みは確実に世界中の高級ホテルにも影響を与え始めています。