多田氏が言及しているように、ここまで大規模なシェアハウスはソーシャルメディアが現実化した住環境と言えます。ここで暮らす人々のライフスタイルに寄り添った高級ホテルについて考えるとき、利用者の交流を積極的に促すACE HOTELのようなソーシャル化されたホテルは、シェアハウスの延長線上にある遊び場として、彼らが持つ等身大のライフスタイルにフィットすることは間違いありません。
「私がシェアハウスを見ていてありそうだと思うのは、他人とライフスタイルを共有することが当たり前になっている世代が、自分の住まいではなく、ちょっとした非日常を体験する場所としてホテルで遊ぶという発想です。もちろん遊び場にはカフェやレストランだってあります。でも、ACE HOTELのようなホテルであれば、地方や外国から来た友人と一緒に、朝から晩まで遊べる場所としてのニーズが見込まれます」(前出・榎本氏)
ましてや前出の岡田氏が言うように、東京オリンピックに向けた観光需要の拡大を見据えたとき、高級ホテルのソーシャル化は日本を訪れる外国人からも歓迎されるでしょう。そして実際、すでに一部のホテルデベロッパーは、ラグジュアリーブランドのように消費者のシェア志向を取り入れるべく動き始めています。
東京にもコミュニティとしての高級ホテルが誕生する
2014年夏にハイアットホテルズが開業する「アンダーズ東京」は、「地域文化を尊重し、その地域でしか生まれない心地よさと、それぞれのスタイルに合わせた筋書きのないサービスを提供し、友人の家を訪ねているような喜びを感じることができる空間」をコンセプトに、世界中で高い評価を得たホテルブランドです。

現在建設中の地上52階建てタワービル「虎ノ門ヒルズ」内に開業する「アンダーズ東京」。開業に先駆け、プレオープニングスペースが六本木にオープンしており、婚礼予約の受付や、アンダーズならではのイベントも開催する予定。
ビル・イン型のホテルであるため、ロビーこそ開放的ではありませんが、地元のクリエイターらによるイベント「アンダーズ・サロン」を定期的に開催。ACE HOTELのような文化発信拠点になることを目指しています。
同ホテルは、過去にアムステルダムでは地元のファッションデザイナーのファッションショー、ニューヨークではタトゥーアーティストによるセッション、カリフォルニアでは地元ワイナリーとワインラベルアーティストのイベントなどを行っており、東京でもクリエイティブな人々が集う地域密着型のコミュニティスペースへと成長することに期待が集まっています。
ここまで見てきたように、日本におけるラグジュアリー空間は、どのように多様な人々にブランドの本質を体験してもらうか、どのように人々のシェア志向に応えていくのかといった課題に応えるかたちでソーシャル化を進めてきました。
いよいよ高級ホテルにもその流れは迫りつつあり、2020年の東京オリンピックに向けて、本格的な変化の萌芽は表れ始めているのです。
さて次回はがらりと業界を変え、BOTTEGA VENETAにおける職人芸の保存事業に迫っていくことで、いま問われるラグジュアリーの本質的な価値について考えていきます。