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榎本元氏:読売広告社都市生活研究所所長。コミュニケーションの専門家としての立場から、不動産、都市開発、住宅開発等のコミュニケーション・コンサルティング業務を担当。生活者を街の中心に据え、さまざまな企画立案を行っている。

ラグジュアリーブランドもこうした変化と無関係ではなく、冒頭で紹介した新しいスタイルの高級車のショールームやファッションブランドのカフェのように、空間をソーシャル化する試みで、消費者のシェア志向を取り入れようとしています。

しかも、現在進行形で日本の消費者におけるシェア志向はどんどん進んでおり、それはシェアハウスの需要拡大というかたちで表面化していると、読売広告社都市生活研究所所長の榎本元氏は言います。

「シェアハウスといえば生活費に乏しい若年層が暮らしているイメージがあるかもしれませんが、実際の主な居住者は社会人で、性別や業種を問わず多種多様な人々が暮らしています。1都3県のワンルームタイプの賃貸住居に占めるシェアハウスの割合は未だに1~3%というニッチ市場ではあるものの、稼働率は90%以上で、大手のデベロッパーも次々と参入を表明中。近い将来、賃貸住居全体の10%程度もの拡大が見込まれている成長産業です。最近では、企業の社宅にまでシェアハウスが採用されるようになってきました」

Facebookの世界が現実化したシェアハウス型の社宅

2013年9月に東京・月島にオープンした「月島荘」は、複数の企業が1つの建物を共用するシェアハウス型の企業寮としてイヌイ倉庫株式会社が建設しました。総部屋数は644室。この巨大さだけでも驚きですが、月島荘をシェアハウスたらしめているのは、「クラスター」という概念で入居者たちの交流を積極的に促している点にあります。

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イヌイ倉庫株式会社が東京・月島にオープンした企業向けシェアオフィス。複数企業の社員が入居する予定で、共有空間がソーシャルな交流の場になる。

ここで暮らす社会人は所属する企業に縛られない12からなる独自のクラスターに分けられ、それぞれ専用の共有施設を設置。その場でくつろいだり、ほかの入居者との会話を楽しんだりすることができます。しかも、そこに住まう人々は別々の企業に勤める社会人たち。同じクラスターに入居できるのは1社につき5人までに制限されているので、必然的に異業種間交流が生まれるというわけです。

月島荘の設計を担当した三菱地所設計住環境設計部の多田直人氏は、住宅情報サイト「HOMES」の取材にこう答えています。

「月島荘をシェアハウス型の企業寮にする、それもフロアごとに企業を固定するのではなく、複数の企業の方が1つのクラスターに住まうという話をうかがったときは、『これはすごいな』と直感しました。同じクラスターで知り合った他社の人を、それぞれが自分の会社の同僚に紹介していけば、加速度的に人の出会いが増えていく。まるでフェイスブックが現実になったような世界が実現するのではないか、と感じたのです」