今なぜリーダーにスピーチ力が求められるのか――昨日終了した佐々木繁範氏の好評連載、具体的にスピーチ力を高める方法を開示した書籍『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』の一部を、本日より3回にわたって公開する。その第1回はプロローグの抜粋をお届けする。
ジョブズ伝説のスピーチに見る、大きな影響力より
2005年6月、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学で行った卒業祝賀スピーチは、伝説のスピーチと呼ばれています。15分の話には、感動がぎっしりと詰まっており、世界中の人々の心を揺さぶりました。
主催者のスタンフォード大学は、ジョブズのスピーチをその後ユーチューブ(YouTube)に掲載。以来、2012年1月までに1300万回以上ダウンロードされています。
ジョブズのスピーチはネット上で評判となり、またたく間に世界中のブログで紹介されました。日本では、日本語の字幕付きクリップが登場し、視聴者が急激に増えました。
そして2011年10月5日、56歳でジョブズが永眠したあと、その人生がうかがい知れるということで、このスピーチは新聞や雑誌などさまざまなメディアに紹介され、爆発的に視聴者が増えました。そしてさらに多くの感動を呼び、伝説の名を不動のものとしています。
さて、ジョブズのスピーチを聴いて、視聴者は何を感じたのでしょうか。ユーチューブに書き込まれた感想を拾ってみましょう。
「感動した。この話はきっと後生まで受け継がれていく」
「感銘を受けた。忘れかけていた情熱的な人生を思い出した」
「愛あるメッセージだ」
「目がうるんで画面がかすむ」
「最近仕事で悩んでいたから、号泣した」
「このスピーチを生まれた瞬間から理解していたかった」
「毎年1度見るが、いつ見ても心に響く」
「ジョブズの言葉には魂を感じる」
「すごすぎて思わず絶句した」
「勇気が湧いてきた」
「感動して身体がしびれた」
「一つ一つの言葉が胸に沁みる」
「あなたの言葉を一生心に刻んでいく」など。
私がこのスピーチを知ったのは2008年のことでした。ちょうどその頃、好きな仕事をするために独立しようかどうか迷っており、不安な毎日を送るなか、この話に感動して鳥肌が立ったことを覚えています。ジョブズの言葉が私の心を奮い立たせてくれたのです。
「ジョブズが世界を変えることができたのは、心から好きなことをやったからだ。迷ったときでも、心の声を信じて挑戦を続けたからだ。だから、私も自分の心に従って、頑張ってみよう」。そんな気持ちが湧き起こってきたのでした。ぜひウェブで全文を見ることをおすすめします(youtubeには日本語訳つきの動画もたくさんあります)。
広く知られている名スピーチとしては、古くはリンカーン大統領のゲティスバーグ演説から、最近ではオバマ大統領が2009年に行った大統領就任演説などいろいろあります。とはいえ、そうした歴史的スピーチをお手本にしてくださいと言われても、途方に暮れてしまうのではないでしょうか。国民に向けた内容だけに私たちの日常とかけ離れていますし、洗練された用語や高度なレトリックが随所に使われていて、技術的にもそうそう真似できそうにありません。
それに比べてジョブズのスピーチには、学ぶべきポイントがたくさんあります。
ジョブズはプレゼンの神、天才などと称され、アップルの製品発表の場では、いつも華麗なパフォーマンスで人々を魅了していました。そんなカリスマだからこそ伝説のスピーチが可能だと思われるかもしれませんが、このスタンフォード大学でのスピーチに限って言えば、内容にせよ、構造にせよ、非常にシンプルで、私たちでも十分真似できるものなのです。