論理性、情熱、信頼性が揃ったときに心は動く

 古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、人を説得するスピーチの条件として、論理性(ロゴス)、情熱(パトス)、信頼性(エートス)を挙げています。簡単に言えば、「わかりやすく」「感情に訴える」もので、「心がこもっている」ということです。以下、それぞれに見ていきましょう。

◆論理性(ロゴス)

 筋道を立てて話をすること、つまり、しっかりと理由を説明し、聴衆が納得できるようにすることです。スピーチにおいては、次の3点と関係してきます。

・メッセージが明確であること。
・スピーチ全体の構造がしっかりと組み立てられていること。
・一つ一つの話に合理的な理由づけがあること。

 単に話がうまいことと、スピーチが異なる点はここにあります。聴衆の笑いを誘い、受けたとしても、メッセージをきちんと理解してもらえなければ意味がありませんし、根拠や裏付けがあいまいでは、真剣に受け止めてもらえないからです。

◆情熱(パトス)

 感情に訴えること、つまり、喜怒哀楽の感情を刺激することです。聴衆が、その話に自分のことのように耳を傾け、思わず心が揺さぶられてしまうような力です。

 スピーチにおいては、「ストーリーを語る」という手法がよく用いられます。ある出来事について、自分が何を体験し、何を感じたかを、主観を交えて語ることです。客観的・分析的な話はわかりやすいものの、どことなくよそよそしく聞こえがちです。あなた自身の経験や心の動きを交えることで、聴衆に喜怒哀楽の感情を伝え、分かち合うことができるのです。

◆信頼性(エートス)

 聴衆からの信頼を得ることです。つまり、聴衆が話し手を信じ、頼ろうと思えるようにしなければなりません。

 そのためには、話し手が十分な知識と経験を持っていること、つまり、本物であるとわかってもらうことが必要です。それだけでなく、話し手が自分の利益のために話しているのではなく、聴衆を思って誠実に話していることが伝わらなければなりません。

 スピーチにおいては、次の3点が関係してきます。

・テーマの選択:テーマについて十分な知識や経験があること。
・内容への確信:話す内容を自分自身が本当に信じていること。
・聴衆への思いやり:聴衆の立場に立って、聴衆のために話すこと。

 以上の古典的(かつ普遍的)な3要素から見ても、ジョブズのスピーチはしっかり条件を満たしていると言えます。