感動のカギは、スピーチ原稿にあり

 スピーチやプレゼンというと、多くの人が、原稿を見ずに話すこと、魅力的なスライドや小道具、効果的なジェスチャーを使いながら話すことが、成功の大前提だと思い込んでいます。

 しかし、本当にそうでしょうか。

 ジョブズは原稿を見ながら話をしています。スライドも使っていません。演台から離れず、体も手もほとんど動かしていません。それでも、心の底から聴衆を感動させました。

 感動の本質は、もっと別のところにあるのではないでしょうか。

 そのカギは、スピーチ原稿にあると、私は考えています。アイデアを練り、心から聴衆の役に立ちたいと思って話す内容を整理し、原稿をつくり上げていく過程で自ずと魂がこもるのです。

 そのような本気の原稿であれば、本番に演台の上で堂々と原稿を広げてもまったく問題はありません。さすがに棒読みはいただけませんが、気持ちを込めて聴衆に語りかければ、思いは十分に伝わるはずです。

 もちろん、原稿なしで、聴衆と終始アイコンタクトを交わしながら話ができれば理想ですが、スタイルだけ真似をしても感動するスピーチにはなりません。相当に演説慣れした人でなければ、たいていはスピーチ直前まで緊張していますし、頭の中は話す内容でいっぱいになっているものです。無理やりパフォーマンスをしようとしても、すべるのがオチです。

 せっかく労力を注ぐなら、話しかたよりも、スピーチ原稿を充実させるほうが先決なのです。それが、スピーチの神髄です。しかも、考えに考え抜いて原稿をつくった暁には、結果として、ほとんど原稿を参照しなくとも話せる場合が多いのです。

 さて、いよいよ次章より、ジョブズのスピーチなどを題材に、スピーチの構想を練るための基本プロセスを紹介していきます。基本的には、大きく3つのパートに分かれており、それぞれ実際に行うためのテクニックも含めて解説します。

 本書で紹介するプロセスに従って準備を進めれば、初めてスピーチをする人でも、ジョブズのような素晴らしいスピーチを行えるようになるはずです。

(つづく)

 

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直接語りかける言葉には、聞き手の心を動かす力があります。ソニー盛田昭夫、出井伸之元CEOのスピーチ原稿を担当した著者が、スティーブ・ジョブズなど世界の名スピーチを徹底解剖! ストーリー構成から話し方、当日の心得まで、基本プロセスをすべて網羅。聴衆の感情と行動にインパクトを与えるスピーチづくりのコツを教えます。


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プロローグ スティーブ・ジョブズのスピーチは、なぜ人々の心を打つのか
ジョブズ伝説のスピーチに見る、大きな影響力/三つの項目でジョブズのスピーチを分析する/論理性、情熱、信頼性が揃ったときに心は動く/感動のカギは、スピーチ原稿にあり

part1 スピーチの核をつくる

1章 相手を知る:どんな場で、聴衆は何を期待しているか
日本人のスピーチ下手は過去のこと/スピーチとは、組み立てられた話/スピーチの殿堂、TEDカンファレンス/スピーチとプレゼンの違い/大前提は、場と聴衆を把握すること/何のために設定された場か、主催者は何を求めているか/聴衆は誰か、何を求めているか

2章 メッセージを絞る:最も伝えたいことを明確にする
スピーチ全体を通じて一つのメッセージを伝える/ジョブズはどうやってメッセージを決めたのか? /連想マップを活用してメッセージをつくる/最も伝えたいことは何か

part2 話を効果的に組み立てる

3章 全体構成とボディ:伝わりやすい構造、順番を考える
全体の構造はすっきりシンプルに/スピーチの根幹、ボディの基本パターン/ビジネスパーソンにとって身近な「ポイント提示型」/聴衆に具体的なアクションを促す「問題解決型」/心が動く、共感を呼ぶ「ストーリー型」/ストーリー展開のコツ

4章 オープニング:導入部で聴衆の注意を引きつける
聴衆をつかむオープニングとは/ジョブズのオープニングは、直球勝負/より正統派の、J・K・ローリングのオープニング/真心が伝わる、ブータン国王のオープニング/押さえるべき五つのポイント

5章 クロージング:記憶に残る終わりかた
締めくくりかたで、スピーチ全体の印象が変わる/ジョブズが選んだのは、若き日の思い入れのある言葉/有名な古典で教訓を伝えた、J・K・ローリング/祈りのパフォーマンスに思いを込めた、ブータン国王

part3 原稿づくり、リハーサル、そして本番!

6章 リハーサル:原稿づくりから前日の準備まで
スピーチ原稿を準備する/ステップ① 基本構想/ステップ② アウトラインの作成/ステップ③ フルテキスト原稿の作成/ステップ④ 言葉磨き/リハーサルのポイント

7章 デリバリー:壇上での立ち振る舞いから質疑応答まで
感動の本質は、聴衆と心が通い合うこと/演台に上がる前の心の準備/声を響かせるには/目線と、身振り手振り/予期せぬトラブルにどう対処するか/質疑応答のポイント

エピローグ スピーチライターの仕事
盛田昭夫会長との出会い/出井伸之社長とIT戦略会議/アメリカのスピーチ事情を学ぶ/点と点は、必ずつながる