スピーチの殿堂、TEDカンファレンス

 スピーチの腕を磨くには、優れた話し手の話を聴くことが大切です。今日ではインターネットを通じて、政治家や経営者のみならず、さまざまな分野のオピニオンリーダーや、情熱を傾けて何かに取り組む身近な一般人のスピーチを聴くことができます。

 その代表例が、TED(テッド)カンファレンスです。アメリカのカリフォルニア州モントレーで毎年開催される、TED(Technology Entertainment Design)というグループが主催する講演会で、世界に広める価値がある素晴らしいアイデアを持つ人たち約50人が選ばれ、約1000人の参加者のもと、4日間にわたってスピーチが行われます。

 これまでに、ビル・クリントン大統領、アル・ゴア副大統領などの政治家、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ、ミュージシャンのU2のボノ、物理学者のスティーブン・ホーキング教授といった有名人はもとより、発明家、医療活動家、建築家、戦場カメラマンといったさまざまな分野の第一線で活躍する800人以上がスピーチを行ってきました。

 TEDカンファレンスは年会費6000ドルというだけあって会場設備も整っており、スピーカーはスライドや映像、音楽などを効果的に使ってスピーチを行います。ただし、ビジュアルはあくまで脇役であり、語りを主軸とするスタンスが保たれています。私たちにとってありがたいことに、2006年からはTEDトークとしてインターネット配信が始まり、1000本を超える名スピーチ動画を無料で閲覧できるようになりました。

 また、最近では、世界各地で「TED?」というコミュニティが広がりつつあり、日本でも2010年に「TED?Ryukyu」、2011年には「TED?Tokyo」「TED?Tohoku」が開催され、生の講演を見る機会もできつつあります。 TEDで壇上に立つ人々は、必ずしもスピーチ慣れした人ばかりではありません。ですから、名だたる政治家のスピーチのように、レトリックや決め台詞を駆使するものではなく、スティーブ・ジョブズのスピーチ同様、簡単な語彙が使われ、構造もきわめてシンプルです。話の中身がとても具体的で、個人の実体験や感情が赤裸々に表現されています。

 私たちが参考にすべきは、このようなスピーチではないかと思います。感動は、抽象的な概念や高度な文学表現ではなく、体験談の中身や本音の告白など、スピーカーの生の人間性が感じられるところから生まれるのだと思います。